しょうゆを育てるサブスク「BOTTLE BREW」でキッコーマンがブランドの証「六角形」を使わなかったワケ

9月、「しょうゆを育てる」というサブスクリプションサービスが注目を集めた。その名も「BOTTLE BREW(ボトルブリュー)」。しょうゆを自宅で発酵させ、香りや味の変化を体験できるサービスだ。まずはβ版としてスタートし、2019年度末までに200人の会員登録を目標にしていたが、既にそれ以上の申し込みが来ているという。

ボトルブリューは、会員登録した後、有料の体験会(5000円、税別、以下同)へ参加。その後、意思が変わらなければ月額利用(毎月3000円)に申し込む。すると、隔月でしょうゆの発酵元液が2個(2カ月分)が届く。ユーザーは発酵元液を基にしょうゆを育て、およそ1週間ごとに変化するしょうゆの香りや味をその都度楽しむ。その他、オリジナル商品も利用期間に応じて届くという。

提供するのはキッコーマン食品。キッコーマンのしょうゆといえば、六角形のマークが代名詞となっているだけでなく、卓上瓶が「立体商標」となるなど高いブランド力を誇っている。しかし、ボトルブリューで使う「しょうゆを育てるボトル」には、キッコーマンの代名詞ともいえる「六角形」のマークをあしらっていない。

キッコーマンブランドの“証明”といえる六角形マークを、なぜボトルにあしらわなかったのか。また、どのような狙いを持ちサブスクサービスを開始したのか。サービスの企画開発に携わったキッコーマン食品の花田洋一氏と島田典明氏に聞いた。

「サブスクブーム狙い」ではない
しょうゆに関する情報発信を行うしょうゆ情報センターによると、しょうゆの出荷数量は1990年代ごろまでは110万~120万キロリットルで推移していた。02年に100万キロリットルを下回ったのを境に、以降は右肩下がりを続けている。直近の18年データでは、75万キロリットルほどと、ピーク時の6~7割まで数量が落ち込んでいる。1人当たりの消費量では、最も多かった73年の11.9リットルから、18年には6.0リットルまで減少した。

そもそも、どういった狙いでボトルブリューを企画したのか。花田氏はしょうゆの消費量減少への分析を交えながら、次のように話す。「間違いなくいえることは、家庭用のボトル詰めしょうゆニーズが減ってきているということ。消費量減少は、いくつかの要因が考えられる。例えば、調理する機会が減ったとか、食の多様化だとか。こうした状況を踏まえて『しょうゆの価値向上』を第一に、『選ばれる調味料』となるため、企画した」

花田氏はボトルブリューの特徴として「究極の新鮮体験」を挙げる。しょうゆの鮮度を損なわない、やわらかいボトルの商品が爆発的なヒットを収めたように、今や「鮮度」がしょうゆの価値になっている。自宅で発酵させ、本当に新鮮な状態のしょうゆをすぐさま料理に使うことができる体験がボトルブリューの売りだ。

ボトルブリューはサブスクという点でも注目を集めたが、あくまでベースにあるのは「しょうゆの価値向上」で、「サブスクブームに乗っかったわけではない」と花田氏は笑う。実際、急ごしらえのサービスというわけではなく、数年前から数百人規模で社員モニターを募って、綿密な改良を重ねてのβ版発表だった。

社内モニターでは、「使い方」に関する質問が多かったという。しょうゆを自分で発酵させるということから、サービスには分かりやすいガイドが必要となる。そこで、「取扱説明書」を作ったのだが、それでも「分かりづらい」という声が相次いだ。「サブスクとしてサービスを開始するに当たり、他社のサブスクサービス担当者にも話を聞いたところ『使い方に関する質問が多いのが大変だった』という声をよく聞いた」と花田氏は振り返る。そこで、サブスクサービスには珍しい「事前体験会」を組み込むことになった。

従来の使用方法にとらわれない活用を
体験会は1人1回だけ参加でき、ボトルブリューのキットを入手できる。しょうゆの育て方を指南するだけでなく、育てたしょうゆの発酵度合いに合わせた活用方法も教える。ボトルブリューでは隔月で発酵元液を送付するため「せっかくしょうゆを育てても使ってもらわなければ意味がない」(花田氏)ことが理由だ。それだけでなく、しょうゆを使ったメニューの提供もしているという。参加者には発酵に興味を持っている人も多く、休憩時間には質問も数多く寄せられる。企画当初はライフスタイルに興味がある女性をターゲットにしていたが、男性の参加も多いという。

従来の発想にはないしょうゆの活用方法も、体験会では提案している。ある体験会では、しょうゆにマンゴーとパイナップルを漬け込んだものを展示した。「しょうゆというと『和』のイメージがあるが、使われ方が固定してしまうと市場の成長も見込めない。実はしょうゆは、スイーツとの親和性も高い」と花田氏は話す。

現在、体験会に参加した後、サービスへ本登録する人の割合は8~9割ほどだという。事後アンケートで調査する満足度も5段階評価で平均が4.5と、手応えは感じている。ただ、花田氏は「現在、サービス全般を社内資源のみで運用しているため、会員が大幅に増えた際のオペレーションが課題」と話す。そのため、よりたくさんの会員登録を狙うのか、それともスモールスタートでさらなる改良を重ねていくのか、検討中だという。

ボトルブリューでは消費者に対する新たな提案だけでなく、さまざまな分野と協業する「コ・クリエーション」という考え方も重視している。チョコレートブランドと協力し、ボトルブリューで育てたしょうゆを使用して作ったチョコレートも、過去の体験会で提供した。会員の中には飲食店経営者もいるという。今後は卓上サイズだけでなく、店舗で使えるような大容量のサービスも検討している。

あの“六角形マーク”を使わなかったわけ
ボトルブリューで使うボトルには、キッコーマンを代表する「六角形マーク」をあしらっていない。これはなぜなのか。

花田氏は、「六角形のロゴは良くも悪くもインパクトが強い。従来の『家庭のしょうゆ』感を引き寄せてしまう」と話す。しょうゆの新しい消費方法を提案するサービスだからこそ、あえて代名詞ともいえるマークを取り払った。「マークをつけているものは、キッコーマンとして商品品質を保証していることも示す。ボトルブリューは利用者が作り上げるしょうゆなので、あえて“キッコーマン印”を付けなかった、という理由もある」と話した。

ボトルのキャップも、キッコーマンらしい赤色ではない色を活用した。当初は女性をターゲットとしていたこともあり、ピンクから始まり緑、青といったものを検討したという。ただ、最終的にはおしゃれな空間に置いても違和感が少ない色に落ち着いた。ちなみに、キッコーマンブランドであることを隠しているわけではなく、ボトルの台座は六角形だ。

「キッコーマンのロゴを付けないという選択には葛藤もあった。ただ、会社としてチャレンジの機運が高まっていることで、あえて野心的な選択を取った」と花田氏は話す。同社は調理実演やトークを楽しめる「KIKKOMAN LIVE KITCHEN TOKYO」や発酵をテーマにしたチャンネル「こころダイニング」、オリジナルワインを作れるサービス「WINE BLEND PALETTE」など、顧客とのつながりを強める新たな取り組みを積極的に展開している。「コンセプトを持って商品開発をしている自負はあるが、スーパーで購入してもらうだけではファンを作ることができない。今後はこうしたサービスで、ファンの囲い込みを進めていきたい」と花田氏は展望を話した。

β版ながらも注目を集めるボトルブリューは、縮小傾向にあるしょうゆ市場と、キッコーマンのファンづくりをどのように変えていくのか。今後の展開に注視したい。