【黒田尚子】夫に早く死んでほしい…そんな妻が「貧困」に転落する3つのパターン 高齢単身女性の50%が貧困という現実

「正直、夫には早く亡くなってほしいんです」――。
家計相談を受けていると、シニア妻からこんな物騒な言葉が飛び出すことがある。

家のことや子どものことなど全てを妻にまかせっきり。お金にルーズで多額の借金がある。浮気が止まらない。ずっと前から、暴力やモラハラを受けている等々。
理由はさまざまで、しかも一つではないケースも多いが、年代を問わず、夫に対して、不満や不平を貯めこんでいる妻は多い。
なかには、「ベストなのは、夫が定年退職して退職金をもらった翌日に、交通事故で亡くなってくれることです」など、退職金や死亡保険金が高額になるよう、具体的な時期までひそかに考えている妻もいるくらいだ。
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ただし、運よく(?)、夫が亡くなった後、悠々自適のシングルライフが送れるかどうかは別。想定外の状況になり、生活が困窮してしまうケースもある。
そこで今回は、夫の死後に「遺族貧乏」に陥りがちな妻の3つの事例を挙げてみよう。
まず挙げられるのは、夫が亡くなった後、受給できる年金や預貯金が少ない。賃貸等で、自宅不動産などがなく、住居費がずっと続くといったケースである。
夫の死後に、妻が受給できる公的年金といえば「遺族年金」が思い浮かぶ。だが、そのしくみやどれくらいもらえるか正しく理解している人は少ない。
遺族年金のキホンを整理してみよう。

これは、国民年金や厚生年金の被保険者または被保険者だった方が、亡くなった場合、その方に生計を維持されていた遺族が受けることができる公的年金だ。
大別すると「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2つがあり、亡くなられた方の年金の納付状況などによって、いずれかまたは両方の年金が受給できる。
前者は、国民年金の加入者が亡くなった場合、18歳未満の子(障害状態にある場合は20歳未満)のいる配偶者または子どもがいる場合に支給される。
職業は問われず、年金額は、定額で子どもの数によって加算額が変わる。たとえば、子どもが2人の場合、780,100円+224,500円×2=122万9,100円となる(2019年度価格)。
一方、後者は、会社員など、厚生年金の加入者が亡くなった場合、その方に生計を維持されていた遺族に支給される年金だ。
年金額は、在職中の収入(平均標準報酬月額)や厚生年金の被保険者期間によって異なる。目安は、現役時代の月給×1.6倍程度といわれており、月収40万円の場合、年間64万円になる。
注意すべきは、遺族年金に関して、「亡くなった方の老齢年金の3/4がもらえる」と勘違いしている方が少なくないことだ。
老齢厚生年金は、「報酬比例部分」と「経過的加算部分」に加え、配偶者がいる場合などに加算される「加給年金」などで構成されている。
実際に、遺族厚生年金として受け取れるのは、報酬比例部分の3/4だけ。老齢基礎年金に相当する経過的加算部分などは対象外となる。おそらく、遺族のほとんどは、予想していたよりも少ないと感じるだろう。

厚生労働省の「年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)平成29年」によると、本人の収入総額に占める公的年金収入の割合は、男性よりも女性の方が高く、しかも高齢になるほど高い傾向がある。女性の場合、64歳以下は50.8%に対して、65歳~69歳は77.6%、70~74歳は84.3%となっており、その差は明らかだ。
また、配偶者なし世帯の場合の本人の公的年金の平均年金額を見ると、65歳以上の場合、男性は166.5万円に対して、女性は139万円と少なく、月額にすると約12万円。高齢の夫と死別した妻がもらっている年金のイメージとしては、だいたい、夫の遺族厚生年金が約7万円、自分自身の老齢基礎年金が約5万円といったところだろうか。
おもな収入が公的年金だけという妻は、夫の遺族年金だけをアテにするつもりで、夫が亡くなった後の生活設計をしたのであれば要注意。預貯金もあまりない場合、想定以上に残高が減って困ったということになりかねない。
なお、公的年金のしくみは非常に複雑だ。多少知識があっても、勘違いしているケースもある。金額や受給要件、受給方法などが知りたければ、自治体の担当窓口や年金事務所、年金相談センターで相談するのが確実である。
一般的に、妻が家計簿をつけていたり、管理をしていたりしているご家庭は多いが、財産管理はまだ別だ。
「毎月、夫から生活費を定額でもらっていただけで、どれくらい貯金があるのか知らない」「夫の給与明細を見たことがない」「有価証券や不動産の名義など、すべて夫で管理も任せていた」など。財産管理については、夫が行なっていたケースも多い。

30~70代の既婚女性を対象に行った相続に関する意識・現状調査(※)によると、日々の家計の管理については、管理をしているのが「妻」は82.3%と、ほとんどが妻の役割であることが伺える。しかも、年代や子どもの有無による大きな違いはみられない
※出所:ランドマーク税理士法人「既婚女性の相続に対する意識・現状調査結果」(2014年3月19日)
一方、家の財産の把握については、66%の妻が「いいえ」と回答。3人に1人は財産を把握していないという結果となっている。
同調査では、将来夫が亡くなった後の心配事について、ダントツに関心が高いのが「夫が亡くなった後の生活」(60.6%)。これは、なんとなく理解できるが、次いで「不動産や銀行口座など名義変更の手続き」(42.9%)、「相続税の申告や納税」(42.1%)などの諸手続きが挙がっている。
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これらの点からも、細かなお金は管理できても、大きな財産を管理したことがなく、かつ管理する自信もない、といった妻も少なくないことがわかる。
夫の死後、遺産や死亡保険金が入っても、きちんと管理しなければ、あっという間に底を尽きかねない。あるいは、自分ができないからと、第三者にまかせっきりのままにしておくと、詐欺や横領など、金銭トラブルに巻き込まれる可能性もある。
夫が亡くなった後、どれくらい生活費が減るか考えてみたことがあるだろうか?
もちろん、亡くなった当時の年齢、就労の有無、生活スタイルなどによって変わってくるし、住宅ローンが残っていれば、夫の死後、団体信用生命保険で住宅ローンの残債が弁済されるので、その分は大きなマイナスとなる。

ただ、すでに、住宅ローンなどはなく、リタイヤ後であれば、毎月のお小遣いや食費、日用雑貨、被服費などくらいで、そんなに減らないかもしれない。生命保険業界では、遺族保障などを考える際に、現在の生活資金から遺族の生活資金を算出する方法がよく使われている。たとえば、夫死亡後、子どもが大学卒業までは「現在の生活費×7割」、子どもが大学卒業までは「現在の生活費×5割」などと試算する。
この割合は、あくまで目安に過ぎず、個々の家庭でケースバイケースだろう。実際に、夫を亡くした妻の家計相談を受けると、「一人では外食も旅行もつまらないですし、どれだけお金がかかるかわかりませんので…」と、ある程度の遺産があっても、生活費を切り詰めようとする妻が多い。
しかし、なかには、それほど生活費が減らない妻もいる。とくに、家計管理を夫がやっていた妻は要注意。浪費のストッパー役であった夫がいない分、夫が亡くなったさびしさを消費で紛らわそうと、お金を使い過ぎてしまうケースもある。
また、妻自身は慎ましく、それほどお金を使うタイプでなくても、身近に、子どもなど頼れる親族がいなかったり、疎遠になっていたりするケースも注意しておきたい。
マンパワーがない分をアウトソーシングして補う可能性が高いからだ。
実際、夫の生前中は、買い物や病院への送迎など、夫が車を運転してくれていたが、亡くなった後は、自分で車が運転できないため、すべてタクシーを使うことになり、2~3万円の出費が増えた、というのはよく聞くパターンである。
では、夫の死後に「遺族貧乏」にならないためにはどうしたら良いのだろうか?
まず、夫が亡くなった後の収入と支出、預貯金などを洗い出して、「●●歳まで長生きした場合」など、具体的に年齢を設定して、それまでの収支をシミュレーションしてみることだ。

総務省の「家計調査年報」(2018年)によると、60歳以上の単身無職世帯の実収入は123,325円で、税金や社会保険料などを支払った後の自由に使える手取り額である可処分所得は110,933円になる。
一方、いわゆる生活費ともいえる消費支出は149,603円。かかる税金や社会保険料である非消費支出12,392円を加えると、毎月の実支出は161,995円となっている。その差額の不足分は38,670円。年間で約46万円、65歳から85歳まで生きるとすると約920万円が不足する計算となる。
これは、老後「2000万円」不足問題でよく引用されていた試算と同じ理屈だが、ここには、医療や介護費、住宅のリフォーム、子どもへの援助、葬儀などなど、高齢者に多い、まとまった資金ニーズの分は含まれていない。
これらはあくまでも目安にしかすぎず、数字に惑わされてはいけない。
とにかく、生活資金計画はシビアに考えておくこと。そして、収入が不足する分、補う方法を模索するとともに、それに合わせて生活をコンパクトにする工夫を続けるしかない。
高齢になるにつれ、女性の相対的貧困率は男性の相対的貧困率(*)を大きく上回るようになる。65歳以上の高齢女性の単身世帯の相対貧困率は約47%(※)。なんと、半数近くが貧困状態に陥っているというのは、紛れもない事実なのだ。
(*)世帯員ごとに所属する世帯の可処分所得から世帯規模を調整した「等価可処分所得」を算出した上で、同所得の中央値の50%(貧困線)未満で生活する人々の割合。2014年の貧困線は132万円で、これに満たない人の割合が相対的貧困率となる。
(※)出所:内閣府男女共同参画局「平成24年版男女共同参画白書」