◆2020年、年始の珍事
多くの人々が仕事初めを迎えた1月6日。例年、出勤する有権者に向けて朝一番の駅頭演説を行なう政治家たちの姿があちこちで見られる。菅原一秀・前経産相も6日には再び駅頭を始めるつもりのようだとの情報が鈴木エイト氏のもとに入った。
週刊文春によって有権者買収問題を報道された菅原氏は、「明日国会で説明する」と報道陣に言い放ったまま辞任。体調不良を理由に国会を欠席して、いまだに「説明」を行なっていない。この間、ほぼ毎日続けてきたことが自慢の駅頭演説も中断していた。その菅原氏が再び駅頭に立つのなら、何を語るのかぜひ聞きたい。統一教会との関わりや、記者たちに対する虚偽告訴問題(参照:「建造物侵入罪」濫用で狭められる報道の自由)についても尋ねたい。
朝から練馬区内の鉄道駅前を探してみた。すると大江戸線・光が丘駅前の路上で「自民党」ののぼりを立てて「おはようございます!」と通行人に頭を下げる男たちの姿を発見。菅原氏の公設秘書を含むスタッフたちだ。
しかし菅原氏の姿はない。そして秘書たちは記者たち(私とジャーナリストの鈴木エイト氏)の姿を見ると、車に乗って一目散に立ち去ってしまった。「自民党」と書かれたのぼり5本が路上に置き去られたまま……。
放置されたのぼりの運命やいかに!?
◆菅原さん、出て来づらくなっちゃう?
6日の朝7時。菅原氏の姿を探して練馬区内の鉄道駅をハシゴしていると、ある駅で菅原氏とは別の党所属の地方議員の姿があった。菅原さんを見ませんでしたか?と声をかけると、地方議員はこう語った。
「さすがに今日は菅原さんも出てくるんじゃないですか。(年明け最初の駅頭演説のタイミングである)今日出てこないと、その後出て来づらくなっちゃいますよ」
なるほど。演説する側にはそういう心理もはたらくのか。ならばなおのこと、菅原氏が練馬区内のどこかの駅前に立つ可能性は高そうだ。
そして冒頭に書いた通り、光が丘駅前で菅原氏のスタッフらを発見。3~4人が菅原氏の顔のイラストをプリントしたスタッフジャンパーを着て、通行人に「おはようございます!」と挨拶している。中には公設秘書の姿まであった。
しかし演説はしておらず、菅原氏本人の姿は見えない。「自民党」と書かれたのぼりが5本、路上のあちこちに立てられているが、「菅原一秀」の文字はどこにもない。
菅原氏の姿を探す記者たちを見ると、公設秘書が携帯電話を取り出しメールを打ち始めた。別のスタッフは記者たちを撮影し始める。ほどなく、公設秘書も含めスタッフたち全員が、駅の入り口へと消えていった。後をついていくと、彼らは人混みの中でスタッフジャンパーを脱いだ。公設秘書はまだ携帯電話で誰かと話している。
「まだ上に入ると思います」(スタッフ)
電話でそう報告している公設秘書。そのすぐ背後に記者たちが立っていることに気づくと、
「あ……」
今日は菅原さんはいないんですか? どうして逃げるんですか? などと記者たちが尋ねても、一切返事をしない。秘書らは再び駅の改札方面に向かって歩き出し、途中から全力疾走でさっきとは別の出口から駅の外に出て車に乗り込み走り去って行った。
文字通り秘書たち全員が、だ。
先ほどまで秘書たちが「おはようございま~す!」とやっていた場所に戻ってみた。よく晴れた冬の寒空の下、「自民党」と書かれた5本ののぼりが置き去られていた。木枯らしが駅前の階段を転げ落ちて来る。
寂しそうな菅原一秀氏の顔が脳裏に浮かび、さだまさしの「案山子」が聴こえてきたような気がした。
◆取り残されたのぼりは「落とし物?」
菅原氏がこの場に来ていたのかどうかはわからない。少なくとも、車で走り去って行ったのは秘書だけで、菅原氏の姿はなかった。当然、秘書たち全員が立ち去ったあとで菅原氏が一人で登場して演説をするとも思えない。
取材はこれまでか。
いやそれはそれとして、こののぼりたちはどうするんだ。
鈴木エイト氏が光が丘警察署に電話をかける。
「駅前で、政治家の人も誰もいない状態でのぼりが放置されているんですけれども」
すぐに近くの交番から警察官がやってきた。
事情を全て話して、警察官に尋ねた。
──路上にこういうものを放置していくって、道交法か何かに引っかかりませんかね。それとも落とし物としてぼくらが拾って警察に届けたら(のぼりを)1割もらえたりしますかね。
警官「いやあ。落とし物と言えるのかどうか。故意に置いて行った可能性もあるんで」
──だったら、ぼくが財布を故意に路上に置いて行ったら、誰かが拾っても拾得物にはならないんですか?
警官「いやあ、だってこれ(のぼりは)、落ちてるんじゃなくて立ててあるんでねえ」
──じゃあぼくが財布を路上に立てて置いて行ったら……
警官「ちょっといま署に連絡して確認しますので」
警察署から菅原氏の事務所に電話しても誰も出なかったらしい。署ではわざわざ警視庁本部にまで問合せて、扱いを確認しているようだった。
警官とやり取りしている途中、通行人の1人が我々に向かって話しかけてきた。
「横断歩道(の近く)にこういうの置くのは道路交通法違反じゃないの? 菅原一秀にちゃんと言っといて下さいね」
◆のぼりの処遇が決定。その時……
最終的に、「落とし物として処理することになりました」(警官)と告げられた。
この「落とし物」は警察が車で回収しに来るという。我々も警察署に行って、落とし物を拾って届けた者として書類を作ることになった。
菅原氏への取材はできなかったが、自民党ののぼりが警察によって撤去されるという珍事。記者たちは盛り上がった。
記者「1割もらえる!」
警官「現金ではないので1割とかそういう扱いにはならないですね」
記者「え~」
警官「ただ、落とし主が現れずに3カ月経ったら、拾った人のものにすることができます。菅原事務所が落とし主として名乗り出るとは限らない」
全部もらえるかもしれないというのだ(いらないが)。
そこに、先ほど車で立ち去った秘書たちが再び車で乗りつけてきた。
──どうして逃げたんですか?
──どうしてのぼりを置きっぱなしにしたんですか?
秘書たちは完全無視。無言でのぼりを車に積み込み、公設秘書が警察官と少しやり取りをして、また全員が車で走り去っていった。
警察官「ということで、以上です」
記者「お手数おかけしました」
秘書たちがのぼりを放置したまま立ち去ってから約1時間。落とし物が無事、落とし主のところに戻った。実によかった。
◆有権者に説明する意志皆無としか思えない
道路交通法は第76条3項で、こう定めている。
〈何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。〉
演説などの際ののぼりは、人がそばについていれば通行の妨げになった場合や倒れた場合でも対処できるが、無人のまま放置した場合はそうはいかない。菅原氏陣営が放置したのぼりが「落とし物」扱いとなったことからも、道路使用許可などを得ての設置ではなかったと思われる。
地元有権者でもある鈴木エイト氏によると、菅原氏のスタッフらは過去、取材を避けるために立ち去ったわけではない場面でも、のぼりを立てたままスタッフ全員が引き上げていったことがあるという。
「のぼりを有権者に見せるために意図的にやっている可能性もある」(鈴木氏)
前述の通り、放置されたのぼりが「落とし物」ではなく「意図的に設置したもの」として扱われた場合は、道路交通法違反になりかねない。
それにしても、だ。有権者への年始の挨拶は本来、政治家にとって重要な行事ではないのだろうか。ましてや衆院選が行なわれる可能性があると言われている年の初めだ。
にもかかわらず菅原氏本人の姿がなく、秘書たちだけが挨拶に立っていた。その秘書たちも、記者を見るやいなや全員が立ち去ってしまった。道交法違反になる危険を犯してまでのぼりを放置して。
菅原氏陣営にとって、取材されないようにすることは有権者への挨拶や選挙よりも法律よりも重要なことらしい。いよいよもって、有権者買収問題等々について「説明」する気はないようだ。
<取材・文・撮影/藤倉善郎 取材・撮影/鈴木エイト>
【藤倉善郎】
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)