日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(65)が保釈中に逃亡した事件で、東京地検の斎藤隆博次席検事は9日の記者会見で、前会長の妻キャロル・ナハス容疑者(53)=偽証容疑で逮捕状=が、事件関係者に口止め料を支払ったほか、捜査への協力拒否を要請した疑いがあると明らかにした。前会長の意向を受け、証拠隠滅を図った可能性がある。
検察が公判前に事件の証拠に言及するのは異例。8日の記者会見で捜査や日本の司法制度を批判した前会長に強く反論した形だ。
前会長は、日産の資金をサウジアラビアの知人に送金したり、オマーンの販売代理店経由で自身に還流させたりしたとして会社法違反(特別背任)で起訴された。
東京地検特捜部は2019年4月、保釈中の前会長の住居を家宅捜索。キャロル容疑者の携帯電話を押収し、記録を解析した。斎藤次席によると、キャロル容疑者が、不正送金に関わったとされる販売代理店幹部やレバノンの弁護士事務所職員に、捜査に協力しないよう要請していたことが分かったという。
さらに、特別背任事件に関与していたとみられる前会長の元妻にも多額の現金を支払って口止めをしていた疑いがあるとした。勾留中だった前会長の意向を何らかの形で受けていたとみられ、斎藤次席は「非常に悪質だ」と指摘した。
前会長は会見で、計130日間の勾留中、弁護士の立ち会いなしに「8時間の尋問を受けた。自白を強要された」と訴えた。これに対し斎藤次席は、取り調べをしたのはうち約70日で、時間も1日平均4時間弱にとどまるとし、前会長が弁護士と計120回以上、1回平均約2時間接見していたと明かした。斎藤次席は「前会長の主張は不合理で全く事実に反する。処罰を受けることを嫌い、国外逃亡した」と批判した。
また、前会長が保釈中に使ったパソコンの提出を弁護団が拒んでいる点には「(パソコンの使用は)弁護人が保釈条件として自ら提示した。裁判所に自発的に逃走の経過を説明すべきだ」と訴えた。
弁護団の弘中惇一郎弁護士は7日に「弁護人でなくなる可能性が高いため、発言をすることは意味がなくなってきた」とのコメントを出した。後日会見するとしている。【巽賢司、遠山和宏、金寿英】