マイホーム購入のきっかけは、結婚や出産、子育て、転勤・転職など、個々人のライフプランの変化という人が多い。
しかし、多額の住宅ローンを組んでマイホームを購入するともなれば、注意すべきは購入時期だけでない。自己資金や返済計画はもちろん、物件選びから間取り、周囲の環境がどうかなど、慎重に計画を練るための時間と労力が欠かせない。
それにもかかわらず、十分な準備や検討を重ねずに勢いでマイホームを購入する人がいる。特に、会社の同期社員が家を購入すると聞き、「負けるものか、あいつが買えるなら、ウチも」と購入を決め、その後に後悔している30代ビジネスパーソンからたびたび相談を受ける。彼らの事例を紹介しながら、前編・後編の2回にわたり、ファイナンシャルプランナーとして、何が問題だったのか、どうすべきだったのか考えてみたいと思う。
田村祥太さん(仮名・32歳)さんは、約1年前に都内にマイホームを購入した。妻の亜子さん(仮名・32歳)は、もともと会社の同期で28歳の時に結婚。妻は長女出産(現3歳)を機に退職したが、現在、別の会社で契約社員として働いている。
田村さん夫婦は、結婚してから、賃貸マンション(家賃12万円)で暮らしていた。子どもが成長して手狭になりつつあったが、通勤に便利な立地で、近所にはスーパーやドラッグストア、総菜店などが並ぶ商店街もある。仕事や家事、育児で忙しい毎日を送る夫婦にとって、とても住みやすい環境だった。
マイホーム購入に関しては、いずれ、長女が小学校に上がるまでには……くらいに漠然と考えていた程度で、物件を見に行ったり、情報を集めたりといった具体的な行動は起こしていなかった。
結婚してから銀行で積立定期もしてはいたが、車の買い替えや旅行などで、取り崩すこともしばしばだったという。
状況が一変したのは、祥太さんの同期Aさんが住宅を購入すると聞いてからである。
元同期である妻も、当然Aさんのことはよく知っている。しかも、田村さん夫婦と同じくAさんも職場結婚で、相手は亜子さんの後輩だ。Aさんの妻はまだ同じ会社で働いているが、亜子さんが会社を辞めた今でも、何かと連絡を取っているらしい。
他の同期からAさんの住宅購入の話を聞いた祥太さんは、「Aのやつ、かみさんの実家の近くに家を建てるらしいんだよー。注文住宅だって、すげえなあ」と何げなく亜子さんに伝えた。
このニュースを聞いた亜子さんは、「え? ホントに すごいわねえ」と驚いた様子だったが、それ以上何も言うことはなかった。
それがしばらくして、亜子さんが「家を買う!」と言い出したのである。しかも、すでに、住宅情報誌や住宅ローンに関する書籍などを買い込んで勉強を始めた様子で、銀行の住宅ローンのパンフレットまで集めていた。
そしてこう祥太さんに話しかけたという。
「どうせ、近いうちに買うなら、消費税がアップする前に買っておいたほうが絶対おトクよ」「物件選びさえ失敗しなければ、不動産は安全な金融商品。ローン終了後は資産になるんだよ」「家賃と同じくらいの住宅ローン返済でいいなら、キレイで広い家に住みたいわ」「若いうちに家を買っておいたほうが、早く住宅ローンが終わるしね」「今は金利が低いし、住宅ローンの税制優遇もいろいろあるよ」
急転直下の「マイホーム購入」の動きにあっけに取られる祥太さんを尻目に、亜子さんは、いかに今家を買うべきかをプレゼンしだしたのだ。
妻が説明する「購入すべき理由」は、すべてもっともらしいものだったが、これまで夫婦間で、住宅購入の話などしたことがない祥太さんにとって、まさに寝耳に水。著者に相談にきた祥太さんはこう話す。
「最初は、何で急に(家が)欲しいなんて言い出したのかわけがわかりませんでした。でも、すぐに、妻はAさん夫婦に負けたくないと思ったのかもと気付いたんです。『同期なんだから、Aに買えて、自分たちに買えないはずはない』って。特にAの奥さんは妻の後輩ですからね」
「Aの奥さんは、どちらかと言えば、おっとりしたお嬢さまタイプ。僕の妻は、正反対で、頭も良いし、しっかり者なんですが、気が強くて、おまけに負けず嫌いなんですよ。だから悔しかったんじゃないでしょうか。ちょうど、Aとは、結婚した時期や子どもの年齢もだいたい同じでしたから。これまであまり他人に嫉妬するようなことなんてなかったのに、同期だけに、妻の競争心に火が付いたんでしょう」
結局、亜子さんの勢いに押される形で、祥太さんも住宅を購入することに同意。半年以上かけて、物件探しや資金計画などを立て、消費税が上がる前に駆け込みでマイホームを買うことができた。
購入したのは、物件価格4000万円の築5年の中古マンション。駅から比較的近くて、ほぼ希望通りの物件だったこと。子育てのしやすい環境であることなどが決め手だった。
300万円をかけて内装などをリフォームし、さらに、手数料などの諸費用約120万円、家具・家電製品の買い替えや引っ越し費用など約150万円かかった。
手持ちの預貯金500万円は、これらのリフォーム費用などに使ってしまったため、4000万円以上の住宅ローンを最長35年で組むことに。これから毎月約12万円の住宅ローンを66歳まで返済していかなければならない。
気が遠くなりそうな話だが、いまさら元には戻れない。何とかなるだろう。前を向いて頑張るしかないと田村さん夫婦は思っていた。
誰しも、無意識のうちに、人が持っているものや立場、環境に嫉妬や競争心が芽生えることがある。まったく知らない赤の他人だと気にならないが、友人や同僚など、身近な存在だと、つい比較してしまう。
田村さんの場合、ある意味、同期が家を購入することに妻のほうが嫉妬を覚えたのがきっかけで、自分たちも無理して家を買う羽目に陥ってしまったわけだが、実はこのあと悲しむべき展開を迎えることになる。
雑誌『プレジデント』(2019年11月1日号)がビジネスパーソン1000人を対象に「嫉妬度」を調査している。それによると、他の世代に比べて20~30代女性は、「嫉妬度」が強かった。
「(他人が)高級戸建・マンションに住んでいる」ことが気になるか(嫉妬するか)という質問では、30代半ば以降の世代は女性より男性のほうが「はい」と回答しているのに対し、20代や30前半までの若い世代は、男性より女性のほうが圧倒的に「はい」と答えている。
ちなみに、この若い世代の女性が、同世代の男性に比べて猛烈に嫉妬する対象となるのが、「(他の人が)いい家に住んでいる」ということのほかに、「自分よりも顔がキレイ(な女性)」「スタイルがいい(女性)」だった。若い世代の女性にとって、「いい家に住む」ことは「容姿」と同様に決して譲れないプライドの問題ということだろうか。
嫉妬は、すべての動物が持つ本能だといわれるが、人の場合、何に対してその感情が生じるかは世代や性別によってさまざま。非常に興味深い世界だが、後編で詳述する田村さん宅のようにライフプランを脅かされる展開となってしまうことも多いのだ。(後編に続く)
———-黒田 尚子(くろだ・なおこ)ファイナンシャルプランナーCFP1級FP技能士。日本総合研究所に勤務後、1998年にFPとして独立。著書は『50代からのお金のはなし』など多数。———-
(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子)