拉致被害者家族会は16日の国民大集会で政府に対し、全被害者の即時一括帰国という「最低条件」を堅持しつつ、具体的な進展への期待感を示した。拉致をめぐる情勢に変化がないなか、一貫した姿勢を強調することで、国民に結束と支援を求めたものだ。
「焦らずに急いでほしい、という思いだ」
田口八重子さん(64)=拉致当時(22)=の兄で家族会代表の飯塚繁雄さん(81)は集会の冒頭でそうあいさつ。残された時間は少なくなっているとし「ようやくここまで盛り上がってきた。政府は被害者の帰国に結びつくために、常に考えて行動してもらいたい」と求めた。
横田めぐみさん(54)=同(13)=の母、早紀江さん(83)は「悲しみは被害者本人でないと分からない。歯を食いしばって頑張っていると思うので、一目会って、頑張ってきたねと抱きしめてあげたい」と思いを吐露。拉致被害者の曽我ひとみさん(60)は、一緒に拉致され、帰国が実現していない母のミヨシさん(87)=同(46)=について「元気で生きているかあちゃんに会いたい。皆さん、私にもう一度、親孝行をさせてください」と胸の内を明かした。
集会では初めて、シンポジウム形式を採用。ジャーナリストの櫻井よしこさんを進行役に、めぐみさんの弟の拓也さん(51)、田口さんの長男、飯塚耕一郎さん(42)が登壇し、拉致をめぐる現状について考えを述べた。
拓也さんは、トランプ米大統領が金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との首脳会談で、非核化とともに拉致を再三提起したことに触れ、「(北朝鮮は)拉致について『知らない、聞いていない』と言うのはもう通じない。拉致から逃げられなくなっている」と指摘。一方で「北朝鮮にとって最優先は対米国であることを、残念ながら認識しないといけない」とし、今月末に開催が取り沙汰される米朝の実務者協議にも期待を示した。
米国では先日、対北強硬派のボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の解任が発表された。耕一郎さんは「政治について判断はできないが、こういうときに大事なのは日本政府の普遍的な姿勢だ。同じことを繰り返していくことが大事で、全拉致被害者の即時一括帰国という大前提を一歩も譲らないというスタンスが、改めて必要になっている」と主張した。(中村翔樹)