さいたま市浦和区の県立浦和高校近くにある中華料理店「仙龍」が全焼し、2人の遺体が発見された。店主の伊藤みや子さん(88)と弟の工藤松夫さん(73)の安否がいまだ分かっておらず、生徒や卒業生らの間で悲しみが広がっている。伊藤さんは60年以上にわたり同店を切り盛りし、浦高OBで宇宙飛行士の若田光一さんも通ったほか、今冬の花園に出場した強豪のラグビー部員などからも慕われた「名物おばちゃん」だった。【平本絢子】
火災があったのは16日午前3時25分ごろ。近くに住む女性によると、爆発音がして外に出ると、仙龍の隣にある伊藤さんの自宅が炎に包まれていたという。浦和署によると、自宅と店舗の2棟を全焼し、自宅の1階部分から2人の遺体が見つかった。同署は伊藤さん、工藤さんとみて身元確認を進めている。
「仙龍」は1959年に開店した。JR北浦和駅から北東に延びる「浦高通り」沿いにあり、浦和高からは約100メートル。生徒らに長年親しまれ、伊藤さんは同校の強歩大会であいさつしたり、卒業式に祝電を送ったりもしていた。
「楽しくてにぎやかなことが大好きな人だった」。焼け跡の前で伊藤さんの長女、石川弘子さんが話した。店内には宇宙飛行士の若田さんの写真も飾られていた。「ここは母の生きてきた証し。思い出がいっぱい詰まっている」
浦和高同窓会事務局長の篠田雅彦さん(58)は「浦高のために人生をささげてくれたお店。浦高で知らない人はいない。特別な存在だった」と話す。
今冬、全国高校ラグビーフットボール大会に出場し、16強入りしたラグビー部の部員らも代々、仙龍に通い詰めていた。「あの肉体は仙龍でできているんだよ」。石川さんは、伊藤さんがうれしそうに話す言葉を聞いたことがある。火災から2日後の18日には部員ら10人が現場を訪れ、献花台に花束を添え、手を合わせた。
「試合を見て、ほめてくれた。花園を決めた時も、自分のことのように喜んでくれた」。主将の山際毅雅(こうが)選手(2年)は振り返る。「お店の中を直視できなかった。失ったものが大きくて悲しい」と、涙を拭いながら話した。
安藤核(こあ)選手(同)と東島和哉選手(同)は夏休みの間、練習後、毎晩のように仙龍に通った。試合や大会前にも願掛けのように必ず訪れ、2019年の県大会で優勝した時には「いっぱい食べたのに無料にしてくれた」という。山際選手は「仙龍のおばちゃん、おじちゃんに恩返しするため、今年も絶対花園に行きたい」と誓った。
石川さんは「浦高生は母にとって子どもであり、孫のような特別な存在だった。母には『お疲れ様』としか言いようがない」と話している。
浦和高同窓会は今後、新型コロナ問題が落ち着くのを待って、「送る会」などの開催を検討する。