【消えた核科学者 警察庁拉致関係リストの真実】#2
プルトニウム製造係長 竹村達也さん
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1972年3月、茨城県東海村の旧動燃の独身寮から核科学者が失踪した。竹村達也。旧動燃でプルトニウム製造係長を務めた人間だ。
竹村の部下として働いたことがあるかつての部下や同僚たちは、竹村の失踪をずっと気にかけてきた。北朝鮮による拉致を疑っていたのだ。
竹村の部下だった科学者の男は2012年夏、私に失踪について打ち明けた。
「もし、竹村さんの技術が北朝鮮の核兵器に使われているとしたら……と思うと悔しくて仕方がない。俺たちは原子力を兵器としてではなく、日本経済を支えるエネルギーとして使うため研究に打ち込んできたんだ」
北朝鮮がミサイルの発射実験をするたびに、竹村の失踪が脳裏をよぎるという。確かに、北朝鮮にしてみれば竹村は自国の核開発のために欲しい人材だろう。当時、世界は冷戦真っただ中。東西両陣営は核兵器の開発にしのぎを削っていた。
科学者の男が、竹村の失踪と北朝鮮による拉致を結びつけて考えるには理由がある。
竹村の失踪直後、茨城県警勝田署(現ひたちなか署)の刑事が東海村にある動燃の研究所にやってきた。
男は動燃の管理部門から「刑事さんが話を聞きたいと言っている」と呼ばれた。プルトニウム燃料部で、竹村の部下として働いていたことがあるからだ。同じ独身寮にも住んでいた。研究所と道路を挟んで向かい側にある「箕輪寮」だ。他にも竹村と関係がありそうな職員は呼ばれていた。
■思い浮かばない失踪の理由
男がプルトニウム燃料部の会議室に行くと、中年の男性刑事が尋ねた。
「竹村さんが突然いなくなって、大阪の実家のお姉さんたちが捜している。何か知らないか」
竹村は大阪育ちだ。大阪での人間関係の中で何かあったのなら別だが、少なくとも茨城県東海村で研究者として生活をしている限りでは、竹村が失踪する理由は思い浮かばなかった。
お金を派手に使う様子はなく「畳の下に現金をため込んでるんじゃないか」と噂をしていたくらいだ。借金はしてないだろう。独身寮の住人がやる麻雀にも加わらない。女性の影も、独身だが全くなかった。
周囲にいた人間には真面目で仕事一筋に見えた。刑事の参考になる話はない。聞き取りはすぐに終わった。男は最後に「何があったんですか」と刑事に聞いてみた。すると刑事は言った。
「北に持っていかれたかもしれない」 =敬称略(つづく)
(ワセダクロニクル編集長 渡辺周)