死者・行方不明者63人を出した御嶽山(長野・岐阜県境、3067メートル)の噴火から、27日で5年。あの日、山頂付近で被災し生還した奈良県香芝市の山岳ガイド、小川さゆりさん(48)は、自作の手ぬぐいやステッカーで登山者に「安全な登山、無事の下山」を呼びかけている。「山では楽しさと危険が背中合わせ。命を守るために、万全の備えをしてほしい」と願う。
中央アルプスを中心に活動する小川さんは、2014年9月27日、下見のため単独で御嶽山に登っていた。火口から約350メートル付近にいた午前11時52分、噴火発生。電子レンジや洗濯機ほどの大きさの噴石が飛ぶ中、頭を抱えて岩陰に張り付いた。約1時間後、視界が開けたすきに道なき斜面を駆け下り、助かった。「生かされた自分に何ができるだろう」。以来、各地での講演やガイド時に、100%の安全などない山での危機意識の大切さを語り続けている。
登山初心者に「最低限この準備と装備があれば、万一の際に助かる可能性が高まる」と身に付けられる物で伝えようと、昨年、手ぬぐいを作製。登山計画書や地図、雨具、ツェルト(簡易テント)、ダウンジャケットなどのイラストを配した。
例えば登山計画書。作成すること自体が山の予習になるとともに、遭難した場合には迅速な位置特定につながる。「登る山は自由に選べる。引き換えに、どうやったら安全に登って下りてこられるか考えるのは登山者の義務。それは火山に限らず、全ての山に通じること」。客と山小屋で過ごす夜、手ぬぐいを広げ、自身の体験を交えながら、準備と装備の重要性を説く。手ぬぐいは希望者に販売するが、もうけはない。
御嶽山は今年7月1日に立ち入り規制が緩和され、5年ぶりにシーズンを通じて山頂まで登れるようになった。山頂付近にはシェルターが整備され、二ノ池山荘(旧二の池本館)も先進的な防災施設を備えて再建された。しかし「安心と安全は違う。登山者自身の危険に対する意識が伴わなければ、命を守る行動はできない」と小川さんは強調する。
試作中のステッカーには、山頂に立つ猫のイラストの横に「笑顔で家に帰るぞ」という一文を添えた。山の道具に貼って、ふとした時に目にしてほしいという。「やっぱり山は楽しい。そう思えるのは、笑顔で帰れてこそです」【中本泰代】