◆新型コロナパンデミックに見る日本における謎々効果
現在本邦は、SARS-CoV-2(新型コロナウィルス;新型コロナ)による感染症COVID-19(コヴィッド19)の大規模なパンデミックの渦中にありますが、その一方で、政府、医学界の根本的に誤った対応、「世界的に類例がないPCR検査の極端な抑制」と「社会的距離戦略の不徹底」によって、2月中頃までには感染拡大状況の把握に失敗し、制御不能の極めて危険な状態に陥っています。
過去3ヶ月間の世界の事例を見ると、このような人為的かつ恣意的な失策は、感染者の激増から医療の崩壊、死者・重症者の激増と医療関係者に大量の犠牲が生じるという最悪の代償で償うことになる事に例外はなく、筆者は世界でも最悪の失敗を重ねている本邦の行く末に日々恐怖しています。
しかし本邦における事態悪化の速度は、2月末頃から筆者の予測に比して明らかに週単位の大幅な遅滞を見せており、筆者はこれを「謎々効果」と命名して注視してきています。この「謎々効果」についてはBBCやCNNのほかにも海外メディアは気がつき注視しており、「感染症対策が丸裸に近い無謀な日本において、感染拡大が目に見えて遅いのは何故か」というミニ特集も3月中までよく組まれてきました。
日本は、新型コロナウィルス感染者の発見が比較的早く、また中国の旧正月である春節に合わせた観光需要を見込み入国制限を遅らせたために脆弱な状況にありました。事実2020/02/14に国内で講演したWHOシニアアドバイザである進藤奈邦子氏は、インタビューにおいて「日本だけ様子が異なる。日本だけ感染者や接触者が追えず、感染が広がっている」と強い憂慮の念を示していました*。
〈*“日本はすでに感染拡大”WHO専門家”2020/02/14日テレNEWS24〉
この時点でクラスター戦略という日本独自の戦略は破綻していますが、いまだに国はそれを認めません。進藤氏の発言は、既に日本では追跡不能の感染者が市中に存在し、それは無症状感染者が市中に多く存在する可能性を強く示唆しました。事実この頃からNTTデータ協力会社社員の感染・発病や、公共交通職員の感染、マスコミ取材クルーの感染など事もあろうに首都圏、都心部(霞ヶ関と永田町)で市中感染者が次々に発見される有り様でした。この状態は、エピデミックの立ち上がりを意味し、3月初め以降、日本はロックダウンへの移行を検討せねばならないだろうと筆者は分析していました。そういった中で、安倍首相の陣頭指揮によって公立学校の休校が行われたことは、決定プロセスなどの詰めが甘かったとはいえ高く評価すべき事です。
しかし、ここから「面」の感染拡大は進行する一方で、「量」については日本の統計がめちゃくちゃで評価不能(Bloombergは3月12日に検査過小で信頼できないとして日本を統計から削除した)*であるものの、重症患者、行路病死人の大量発生、医療機関の混乱などが見られず、「質」の面で日本の事態悪化が大きく遅延しているのが自明となりました。これを筆者は「謎々効果」と呼び、BBCなど海外メディアも日本の謎として報じていました。3月半ば頃になると、日本の特異的な事態進行の遅延は、欧米に比して4-6週間程度であると筆者は評価しています。
〈*”What the U.S., Europe Can Learn From Asia’s Brutal Virus Fight” 2020/03/12 Bloomberg
前々回記事に記述したように、日本におけるSARS-CoV-2(新型コロナウィルス、新型コロナ)感染者数の推移そのものは、日本政府による意図的且つ極端な検査抑制(検査をしなければ感染者は見えなくなる=居ないことになる)によるものと世界は看破していますが、一方で日本の社会が見かけ上3月中旬までは平穏であったことも事実です。
◆無意味な「日本独自の特異点」説と満員電車を無視する日本政府
海外と比べて日本社会出の生活様式に特異的なことは、次の3点と思われます。
1)握手、ハグ、キスなどの肉体接触を伴う挨拶文化を持たない
2)土足禁止の生活様式である
3)日常的なマスク着用が全土、とくに都市部で一般化しているし、マスクは高性能マスクである
他に日本人は風呂好きだとか、日本人はとてもよく手を洗うなどといったポット出の主張がありますが、多くの国々でも人々はシャワーを毎日好んで浴びますし、日本人で風呂に余り入れない社会階層は明確に存在します。日本人が特異的に手を洗うという主張は取って付けた大嘘です。よくもまあ、自説の正当化のために自己申告で高学歴の面々が取って付けたような嘘を垂れ流すものだと呆れかえります。
一方で、満員電車により少なくとも一千万人はいると思われる毎日往復一時間以上の移動をするという感染症防御には最悪といってよい日本独特の生活様式*があり、巷に言われる珍奇な日本独自の優位点など妄想か、パンツのシミに過ぎません。また日本政府は、満員電車では乗客はしゃべらないから感染しないという屁理屈で、満員電車の解消には絶対に手を出そうとしませんが、合衆国では例外中の例外である電車通勤都市であるN.Y.市における満員電車の感染拡大への寄与が論文化*されており、日本政府の主張はきわめて根拠薄弱なものとなります。
〈* NY感染拡大「地下鉄の運行数減が原因」米大学教授2020/04/17 TV朝日、(原著論文)The Subways Seeded the Massive Coronavirus Epidemic in New York City, Jeffrey E. Harris, 2020/04, NATIONAL BUREAU OF ECONOMIC RESEARCH, MIT〉
いずれにせよ、日本において新型コロナウィルス禍の深刻化が欧米に比して4-6週間ほどの遅滞をしており、しかも日本政府が感染症防護に背を向け目と耳を塞ぎ続けて、公立学校休校以外の碌な対策をしない無防備国家であることは全世界から注目を集めています。日本における「謎々効果」とは何か? 興味津々です。
◆突然のCDCによるガイダンス変更 マスクは無意味→マスクを着用しなさい
中国の武漢市にて大規模な感染症騒動が明らかとなって既に15週間近くが経過しています。新型コロナウィルスは、主として呼吸器感染症で、咳やくしゃみ、会話などによる飛沫で感染すると言われています。またウィルスの環境耐性が予想以上に高くエアロゾルとしても感染する可能性が論じられています。なお、空気感染は確認されていません。
そのほかに病原体によって汚染されたものを触って手で口や鼻や目を触る事がきわめて大きな感染経路と考えられています*。また病原体が付着した食物を食べるなどが感染経路として疑われていますが、消化器官は感染経路になりにくいとされています。
〈*なぜ人は顔を触るのか 「生まれ持った」習慣を止める方法は?2020/03/16 BBCニュース:BBCは、顔を絶対に触るなキャンペーンを3月中旬から行ってきている。医師や看護師は、手洗い習慣と同様に顔を触らないように訓練を受けているとのこと〉
これらの感染経路からの感染を防ぐ手段としてマスクの着用は意味があるかという論争がこの12週間近く続きました。
CDC(合衆国疾病対策センター)やWHO(世界保健機関)によるかつての公式な説明は、「健康な人がマスクを着用しても意味がない」というもので、各国政府、医学界もそれを踏襲していましたし、現在もWHOは見解を変えていません。
しかし、去る3月31日のホワイトハウスにおける新型コロナウィルス対策タスクフォースの記者会見においてCDCは、健康な市民のマスク着用に関する見解を転換することを発表しました。
1)CDCは、健康な市民にも日常的なマスクの着用を推奨する
2)現在マスク着用の義務化も検討中である
そしてマスクについては次のように言及しました。
a)N95マスクは特殊なもので、医療機関専用と考えている。現在供給が逼迫しており一般人の使用はやめて欲しい
b)一般向けには布マスクを推奨する。布マスクは再利用が可能である
c)不織布マスクも再利用可能である
この記者会見は全米へ中継され、既に報道*もなされています。
〈*Memos from CDC to White House lay out rationale for possible widespread use of nonmedical masks 2020/04/01EST The Washington Post、C.D.C. Weighs Advising Everyone to Wear a Mask 2020/03/31 EST The New York Times〉
これまで一般人のマスク着用は無意味としてきたCDCがこのようにガイダンスを180°転換することは滅多に見ることができません。そしてCDCが根拠なくこの様な転換を行うことはあり得ませんので何らかの明確な根拠を掴んだと言うことでしょう。このことは今後詳細が公表されると思われます。
現時点でのCDCからの公式発表は2020/04/03(EST)に行われたものです*。
〈*Recommendation Regarding the Use of Cloth Face Coverings 2020/04/03EST CDC〉
これによってCDCは、これまでの健康な人にはマスク無用というガイダンスを撤廃し、健康な人は外出時に布で顔を覆う(マスクをする)ことを勧告しました。顔を覆うものならばマスクでもなんでも良いという勧告です。合衆国には挨拶文化があり、とくに口元の表情は敵意がないことを示すために極めて重要としてきましたので、マスクで口元を覆うことはタブーに近いものです*。したがって、これは疾病対策で合衆国の文化、習慣を大きく変える社会的に重要なものと言えます。
〈*筆者が在米中、街中ですれ違う、見ず知らずの人々が”Hi”といって歯を見せて笑顔を示す挨拶がどうしても不思議だったので、現地の日系人二世に質問したところ、「そうやって敵意がないことを見せないと撃ち合いになってもしらないよ。」という答えであった。何処まで本気かは分からないが、一人当たり銃が二丁以上ある社会において敵意がないことを見せることは重要で、それが口ものと表情ということであった。スパイダーマンなどの一部例外を除き、メリケンヒーローの口元露出率は高い〉
◆世界は「マスク義務化」の流れに
4月3日(EST)の記者会見で、トランプ大統領が、「マスクでも何でも良いから顔を覆うんだ、でも俺はマスク付けないぜ。」と発言する珍事がありました*が、これは口元を隠すことは好ましくないという価値観によるものと思われます。その一方で、「マフラーでも良いんだぜ、分厚いぜ。」と口を挟むなど、顔を触らないように口と鼻を覆うことを考えていることが窺えます。
〈*米保健当局がマスク使用を指示、トランプ大統領「自分はしない」 2020/04/04 JST BBC〉
なおCDCによるマスク推奨の理由として大きなものは、もし自分自身が無症状感染者の場合、マスクをすることで他人に感染させる危険を減ずるというものがあります。これも日本では「無症状感染者は少ない」「無症状感染者から感染する可能性は低い」という単なる楽観的願望に基づいたデマゴギーが国や数多くの国策翼賛デマゴーグによってばら撒かれてきましたが、CDCによると無症状感染者は感染者の25%におよび、無症状感染者は強い感染伝搬力を持つという知見によって完全に否定されています。最近の国外報道では、無症状感染者は25%どころかもっと多い可能性も示唆されています。
また、同時に一般向けの説明も公開されました*。この変わり身の早さは、さすが合衆国と感心します。過去150年に及び常に過ちを認めず、失敗を深刻化させ、棄民政策で市民を見殺しにし続け、遂には21世紀末の滅亡が人口動態から予測される日本政府と交換したいものです。
〈*Cloth Face Coverings: Questions and Answers 2020/04/04 CDC〉
本邦では、ヒノマル国策翼賛デマゴーグが、「マスクは不要」プロパガンダをまき散らし、市中ではマスク着用者に対する暴力的行為にまで及んでいるというSNSにおける話題までありました。しかし彼らのドグマ(教義)は、CDCの方針変換によって完膚なきまでに否定されました。
現時点でのCDCの見解は、「健康な市民であってもマスク着用はその義務化を検討するほどに有効である」というものです。
そして時をほぼ同時にして全世界でマスク義務化を含むマスク推奨キャンペーン、街頭での高性能不織布マスクの無償配布*が始まり、街ゆく人々がマスクを着用している風景に一変しました。
〈*Coronavirus: Why you now have to wear a mask in Austrian shops 2020/04/06 GMT BBC、トルコ、市民に「マスク週5枚」 街頭でも配布2020/04/06 JST時事通信〉
◆CDCガイダンス変更の予兆
このようなCDCによるガイダンスの変更は、突然行われたものではなく、その予兆はありました。筆者は、BBCとCNNを常時視聴していますが、BBCは明確にマスク無用キャンペーンを3月半ばまで行っていました*。
〈*新型ウイルスにマスクや手袋は有効? BBC番組が解説2020/03/04 BBC〉
しかし、筆者の記録ではBBCは、3月中旬から「顔を絶対に触るなキャンペーン」*を執拗にはじめていました。医療関係者のような訓練を受けていない人間が、顔を触らないようにすることはたいへんに難しく、感染対象である口、鼻、目を触らないようにするにはマスクやゴーグルが最も簡便でこうかはばつぐんな手段です。
〈*なぜ人は顔を触るのか 「生まれ持った」習慣を止める方法は?2020/03/16 BBCニュース〉
BBCは、日本、中国、韓国、台湾、香港などの極東の国々における、高性能不織布マスク着用率の高さ、とくに日本における街ゆく人々の殆どが高性能不織布マスクを着用している光景を頻繁に報じるようになりました*。とくにいまだにロックダウンをせずに、満員電車を運行している光景を極めて異様なものと報じると同時に殆ど全ての乗客が高性能不織布マスクを着用している様子を必ず報じています。
〈*マスクをする国、しない国 何が違うのか? 2020/03/26 BBC〉
筆者は、国策である林野行政の失敗によって本邦に蔓延する花粉症という公害病対策で近年高度に発達した本邦のマスク文化が先に述べた日本での新型コロナ感染症の深刻化を4-6週間遅らせている「謎々効果」の原因の一つとして着目されていると考えました。
そして3月31日(EST)のホワイトハウスにおける新型コロナウィルス対策タスクフォースの記者会見におけるCDCのガイダンス変更予告を皮切りにBBC World Newsでは布マスクの着用推奨を大々的に報じはじめ、4月3日(EST)のCDCによる正式発表を迎えました。
これを契機に世界の国々では、市民の外出時マスク着用義務化を含めマスク推奨と高性能不織布マスク(サージカルマスク相当)の街頭での無償配布などをはじめBBCによって報じられています。
◆マスクプロパガンダの原点
詳細は次回にしますが、顔を触らないためには布マスク以上が、飛沫の通過を阻止するには最低限高性能不織布マスク(サージカルマスクに相当)の着用が極めて強く推奨されるのですが、BBCにおいても理屈が通らないマスク不要論が散々繰り返され、現在もWHOは撤回していません。4/22に放送されたBBCのHard TalkにWHOのDavid Nabarro氏が出演しましたが、やはり一般人にマスクは要らないと断言したものの、その後の司会者による追及に主張がずるずると後退していきました*。
〈*BBC World News HARDtalk, David Nabarro WHO special envoy for Covid-19 2020/04/21GMT〉
これらを見ると明確に分かるのは、N95マスクを一般人は使うな、医療関係者に譲れという主張がマスク無用プロパガンダの原点にあります。筆者はこれには賛同します。そもそもN95マスクは息苦しくて活動の支障になりますし、生産も限られていますので、訓練を受けた医療関係者に集中配分すべきです。
しかし、大量生産が行われ、日本など「マスク先進国」では国内生産も大規模に行われている高性能不織布マスクは、いくらでも増産が可能な上に患者を増やさないという大きな効果を持ちます。従って、医療機関への優先配分だけでなく、市中への大量流通が可能です。
高性能不織布マスクが一時的にでも枯渇した場合には布マスクを使うことも可でしょうが、布マスクを無理に流通させることには意味がなく、その程度ならばマフラーでもスカーフでも西部劇のギャングマスクでも顔を触らないための何かを顔に巻けばよいだけです。
結局の所、マスク無用プロパガンダは、医療資源配分政策を優先する余りに感染症予防における個人防護具の効果について市民に対して権威主義的に虚偽を流布してきたという極めて不誠実でくだらないことであると言えます。これを転換できたCDCと合衆国は偉大だと筆者は考えます。
最後に、筆者の考えをまとめ、次回以降、論じて行きます。
1)マスク無用プロパガンダは、医療資源配分政策と感染症予防を混同した虚偽であり、CDCによって完全に否定されている。既に全世界でCDCへの追従が始まっている
2)SARS-CoV-2パンデミック下において、市民は自分自身が感染者であるという前提でものを考え、他人に移さないように行動せねばならない。その為に最低限布マスクなどの着用は必須であるが、高性能不織布マスク(サージカルマスク相当)が好適である
3)顔を触らないために布マスクでもギャングマスクでもなんでも顔に巻けば「こうかはばつぐんだ」
4)飛沫感染防止には布マスクの「こうかはない」が、高性能不織布マスクの「こうかはばつぐんだ」
5)N95マスクを一般人が使う必要は無い。医療に全て回し、もしも仮に余裕が出れば介護・福祉、運輸・物流・小売り、行政の順で拡大すべき
6)高性能不織布マスクを医療機関から一般市民に至るまで不足なく潤沢に使えるようにすることが極めて重要
7)高性能不織布マスクについては、増産、輸入体制が確立しつつあり、本邦ではロックダウンを行えば医療機関から行政までと市民へ完全に行き渡る。ロックダウン中にさらなる増産体制を確立し、ロックダウン解除後の爆発的マスク需要増に備えねばならない
◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ3
<文/牧田寛>
【牧田寛】
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まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中