◆官邸近くのラーメン屋に、安倍総理の写真が
4月24日、金曜日。前日発売の『週刊文春』で、森友事件の公文書改ざんで死に追い込まれた財務省近畿財務局の赤木俊夫さんの記事を6週連続で書いた私は、首相官邸周辺を訪れていた。
と言っても安倍総理に用があったわけではない。あっても会ってくれないだろう。私が用があったのは、官邸のすぐ下にあるお店、「支那麺はしご 赤坂店」。ここの排骨担々麺(ぱいこうだんだんめん)が実においしい。大好物なのだ。
私にこのお店を教えてくれたのは西岡研介さん。最近、JRと革マルの因縁を描いた『トラジャ』(東洋経済新報社)という著書で注目される、フリーのノンフィクションライターだ。元『神戸新聞』記者で兵庫県警担当。当時、私もNHK神戸放送局で兵庫県警担当。我々はライバルであり同志でもあった。
西岡さんはその後、雑誌『噂の真相』や『週刊文春』で活躍。一昨年、NHKを辞めて雑誌に記事を書きたいと考えていた私に文春を紹介してくれたのは彼である。そのおかけで今、私は『週刊文春』で赤木さんの記事を連載できている。西岡さんは恩人だ。文春を紹介し、このお店も紹介してくれた。
お昼時はいつも混雑して行列ができるこのお店も、今はお客が少ない。その店内の壁に、見慣れた顔写真が掲げてあるのがおわかりだろうか? そう、安倍総理。店の外にある官邸の今の主である。
これは『リベラルタイム』という雑誌の記事。その名も我が国の首相にふさわしい。記事は《「安倍総理」が行った店》というタイトルだ。記事によると、安倍総理は5年前、2015年の1月12日の昼に秘書官ら10人以上とともにお店を訪れ、太肉担々麺(だあろうだんだんめん)と餃子を味わったようだ。
◆“未曾有の危機”にある安倍総理
私はお店の方に尋ねてみた。
「安倍さんはよく来られるんですか?」
「いや、さすがによくは……立場が立場ですからね」
「ここは首相官邸がすぐそばですよね」
「ええ、この時はSPさんも大勢来てたいへんでした」
安倍総理は今、“未曾有の危機”にある。未曾有は「みぞう」と読む。「みぞうゆう」ではない。と書くと「何を失礼な」とお叱りを受けそうだが、中には読めない方もいるようなので。我が国の財務大臣のように。
NHKのニュースは「義務教育を終えた方なら誰でもわかるようにわかりやすく」が信条だ。私はそこで31年間鍛えられた。義務教育どころか大学を出ても読めない方がいることを我が国財務大臣に教わったので、わかりやすく丁寧に。何事も勉強になる。
それはともかく安倍総理は今、“未曾有の危機”にある。国難と言うよりむしろ総理の危機。アベノマスク。10万円給付の迷走。コラボ動画の炎上。コロナ拡大防止で「外出しないで」と呼びかけているさなかに妻の大分旅行が発覚。その数日後、再び「外出しないで」と呼びかけた。妻ではなく、国民に。
すべて自分がしでかしたことではあるが、それでなくても頭が痛いのに、公文書改ざんで命を絶った赤木俊夫さんが書き遺した「手記」を、雑誌で記事にする輩がいる。でかでかと。しかも毎週。すでに6週連続で、どうやら次も出るらしい。なんてしつこいんだ!
◆危機にある安倍総理を支持する心理とは!?
そんな安倍さんのことを、この方も心配している。亡くなった赤木俊夫さんの妻、昌子さん(仮名)のお母さん。俊夫さんにとっては義母にあたるが、お母さんは俊夫さんと仲良しで、よく一緒に旅行や行楽に出かけていたという。俊夫さんが手記で「大好きな義母さん」と書いている方だ。
俊夫さんのことを「財務省に殺された」と語り、「財務省に鉄砲持って乗り込みたい」とまで怒り心頭のお母さんだが、安倍総理のことは今も「安倍ちゃん」と呼ぶ。「安倍ちゃんもかわいそうよね」と。
ですが、安倍総理を支持している皆さん、ご安心ください。安倍総理の足元は微塵も揺らいでおりません! 首相官邸の足元にあるこのお店に、安倍総理の記事が掲げてある限り。
誰が何を言おうと、どんなことがあろうと、安倍さんを断固支持する。それが草の根安倍シンパというもの。赤木さんの義母さんが「安倍ちゃん」を「かわいそう」と言う心理と似ているのだと思う。
その草の根支持がある限り支持率は落ちず、安倍総理は安泰だ。安倍総理の治世は永久(とわ)に続くことだろう。千代に八千代に、さざれ石の巌(いわお)となりて、苔のむすまで。
もっとも安倍総理が安泰でも、我が国が安泰とは限らない。コロナも、森友も、赤木さんのことも。こんなに深刻なのに、なぜか笑えることばかりする安倍政権。
【文/相澤冬樹】
【相澤冬樹】
大阪日日新聞論説委員・記者。1987年にNHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。2018年にNHKを退職。著書に『安倍官邸vs.NHK』(文藝春秋)