新型コロナウイルスをめぐる緊急事態宣言の発令から3週間が経過し、東京都などの新規感染者数増加は鈍化傾向が出てきた。「陽性率」の高止まりが指摘され、爆発的患者急増を見逃す恐れがあるとして、もっとPCR検査を増やすべきだとの主張もある。だが、京大大学院医学研究科非常勤講師で医師の村中璃子氏は、「検査対象を議論しないまま、拡充だけを主張するのは本末転倒だ」と指摘する。
東京では27日、新たに39人の感染者を確認した。26日の72人に続く100人割れで、連日100人以上を確認された13日以降の約2週間と比べると減少傾向だ。外出自粛の成果が出つつあるが、一方で高水準の数字が注目されている。
厚生労働省によると、PCR検査の陽性者数を検査数で割った陽性率は、1月15日~4月24日までの推計で全国では10・1%だが、東京で38・1%、大阪で19・2%となっている。
陽性率が高い理由について、分母となる検査数が少ないためだとして、検査拡充論も根強い。検査を受けていない感染者が膨大におり、クラスター(感染者集団)の発生を見逃す恐れがあるという主張だ。
日本はPCR検査を重症者中心に行ってきたが、ドイツや韓国などと比べて検査数が圧倒的に少ないとの批判もある。
だが、村中氏は「世界保健機関(WHO)もこれまで7~12%程度の検査陽性率を目安にPCR検査を実施すべきだとし、千葉大のグループは7%以下の検査陽性率の国は死亡率が低いとのデータを出しているが、日本はそれよりずっと検査陽性率が高いのに100万人当たりの死亡者数は欧米のどの国と比べても1ケタから2ケタ少ない」と分析する。
無症状者を含めて対象を定めずに検査をすべきだとの主張については、「仮に東京だけで実際の感染者がPCRで確認している感染者の何十倍もいたとしても、その人たち全てを検査対象とすれば、今すぐ医療崩壊が起きるだろう」と村中氏。
「ドライブスルー方式」の検査を実施するドイツも、希望者全員がPCR検査を受けているわけではない。
村中氏も、PCR検査の能力を高めることには全面的に賛成だというが、「問題は“必要な検査”が足りなくなってきていることだ。増えた分のPCR検査のキャパシティーは、より一層、重症者の救命と医療従事者の保護を目的として絞っていく必要がある」と強調する。
欧州などでは、完全な終息をしないまま、ロックダウン(都市封鎖)を段階的に解除している国もある。日本も今後、緊急事態宣言をどのように解除していくかが焦点となるが、PCR検査への固執が議論の妨げとなる恐れもあるという。
前出の村中氏はこう提言した。
「無症状の感染者の存在や精度を考えれば、PCR検査による感染者の全数把握は不可能だ。低く抑えられている死者数や集中治療室(ICU)の入院患者数など、PCR検査件数以外の数字にも着目して一連の対策の成果を冷静に評価し、段階的解除のロードマップを提示する必要がある」