【突破する日本】国家公務員の「定年延長案」 給与引き下げ伴わない異常

検察庁法改正案の成立が見送られたことで、「束ね法案」の国家公務員法改正案成立も見送られた。早速、「なぜ国会公務員法改正案を道連れにするのか。切り離して成立させるべきだ」との批判の声が野党などから挙がっている。
案の定の展開だ。彼らは、国家公務員の定年を60歳から65歳に延長するが、給与引き下げを伴わない内容であることに触れようとしない。
国家公務員には労働組合がある。「国公関連労働組合連合会(国公連合)」と、「日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)」が二大勢力だ。
私は、野党が検察庁法改正案への批判を「目くらまし」にして、国家公務員法改正案の内容に批判の矛先が向かないようにしたとみている。
検察庁法改正案の内容にも触れておきたい。
検察官の定年を国家公務員の定年年齢にそろえて63歳から65歳に引き上げる。検察トップの検事総長は現行の65歳定年のままとする。次長検事や全国に8人いる検事長など幹部は63歳を過ぎると「ヒラ検事」に戻す。そのうえで、検事総長や次長検事、検事長は内閣が、検事正は法相が「公務の著しい支障が生じる」として必要と判断すれば最長3年、その職にとどまれるとする。
ここに政権に都合の良い幹部をポストにとどめ、不都合なら退職させる人事ができる余地が生まれ、政府の検察人事への恣意(しい)的介入を可能とするとして安倍晋三首相をフランス絶対王政のルイ14世や旧ソ連のスターリンになぞらえる批判が展開された。
しかし、改正法案の施行日は2022年4月1日とされており、一方で安倍首相の自民党総裁任期は来年9月までだ。総裁任期を延ばすには「総裁公選規程」改正が必要であり、どんな独裁者でも自分が退いた後の検察人事に介入する法律を今の段階で作る間抜けな真似はしない。
問題は、検事総長や次長検事、検事長は内閣が、検事正は法相が定年延長を判断するとするが、ここでいう「内閣」「法相」の実態は何なのかということだ。
現行の検察庁法も、検事総長、次長検事、検事長について「その任免は、内閣が行い、天皇が、これを認証する」(15条)と規定する。しかし、内閣の任免は形式的なもので、実際の人事は検察当局が行ってきた。
安倍首相も「大体、検察の人事をこっち(官邸)で決めているわけではないし、はなから私は(検察庁法改正に)熱心ではない」と述べている。改正案の検事総長らの「役職定年」延長の判断も検察当局が行うことを前提としていたはずだ。批判はまったくの的外れなのだ。
■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院法学研究科修士課程修了、政治学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専攻は憲法学。皇室法制、家族法制にも詳しい。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学国際学部教授。内閣官房・教育再生実行会議有識者委員、山本七平賞選考委員など。法制審議会民法(相続関係)部会委員も務めた。著書に著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)、『公教育再生』(PHP研究所)、『明治憲法の思想』(PHP新書)など多数。