新型コロナウイルスの感染拡大でマスクの品薄が続いていた3月、山梨県に手作りマスクを寄贈した山梨大教育学部付属中2年、滝本妃(ひめ)さん(14)=甲府市=の行動が反響を呼んでいる。各地の中学生らが手作りマスクを寄贈する“共助の輪”が広がり、滝本さんの元には全国から100通を超える称賛の手紙が届いている。
マスク作りのきっかけは2月末、母親と薬局に立ち寄った際、店内でマスクを探し回る高齢女性の姿を見かけたことだ。「いろんな店を回ったが、マスクが買えない」。店員にそう訴える女性の姿に、将来は医師になるのが夢の滝本さんは「力になりたい」と思ったという。
貯金していたお年玉8万円を崩して布やガーゼ、ゴムといった材料を購入。1人で製作に取り組んだ。ゴムを通す部分の縫製が難しく、1枚作るのに10分かかる。長い時は1日5時間もミシンと向き合った。作業時は手指の消毒も心掛け、出来上がったマスク一枚一枚を丁寧に包装し「手洗い、うがいは念入りに」などのメッセージを添えた約600枚を県に寄贈した。マスクは高齢者施設や児童養護施設に配られている。
このことが報道されると、同世代の中学生らも続いた。休校期間を利用してマスクを手作りし、自治体に寄付する動きが東京都や埼玉県など各地で相次いだ。愛知県尾張旭市の中学3年、山田愛奈(まな)さん(15)もその一人。地域に貢献する滝本さんに「すごいな」と驚きと敬意を抱いたという。「私も人のために役立ちたい」と思い立ち、マスクを手作りして50枚を5月19日に尾張旭市へ寄付した。
山梨県には「マスクの作り方を知りたい」との問い合わせも寄せられた。これを知った滝本さんは5月18日、材料と製作手順をセットにしたマスクキットを県教委に寄贈した。県も「ひめ’sマスク」としてホームページで製作手順を公開している。
こうした中、全国各地から100通を超える手紙が県などを通じて滝本さんに届いている。「世知辛い世の中、明るい話で感無量だ」「優しい勇気のある行動に心を打たれた」といった内容で、差出人の住所が分かるものには、滝本さんはお礼の手紙を返している。寄せられた手紙の中には「息抜きに好きな本を読んで」「マスクづくりに使って」と図書カードや現金、商品券が同封されているものもあった。届いた現金など計32万2500円分について、滝本さんは県を介して県内の児童養護施設に寄贈した。「私は両親と一緒に何不自由なく生活している。でも、不安を抱える子供はたくさんいる。そういう人のために役立ててほしい」と話す。
滝本さんの通う中学校では5月25日から分散登校が始まった。医師は、幼稚園の頃から憧れている職業だ。現在は将来に備え、英語の勉強にも力を入れているという。【梅田啓祐】