「我々が取り締まっている組織こそ最強だ」と自負するマル暴刑事――ヤクザと関わる人々の特異な心理とは

バラバラ、寄せ集め、裏切り、裸の王様……ヤクザ社会には「NGワード」が存在する? から続く
新宿歌舞伎町の通称“ヤクザマンション”に事務所を構え、長年ヤクザと向き合ってきたからこそ書ける「暴力団の実像」とは―― 著作「 潜入ルポ ヤクザの修羅場 」(文春新書)から一部を抜粋する。
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山口組ウオッチャー
現在、レギュラーで暴力団記事を扱っている週刊誌は『アサヒ芸能』『週刊実話』『週刊大衆』の3誌である。
『アサヒ芸能』は昭和の暴力団記事のトップリーダーで、山口組田岡一雄三代目の自伝を連載するなど、山口組関連記事では他誌に圧倒的な差を付けていた。現在は3誌の中でもっともヤクザ記事の分量が少なく、基本的に現役幹部のインタビューは掲載しなくなった。週によっては全くヤクザ関連記事が載らないこともある。中途半端な形で暴力団に触れるなら決別すればいいのにと思うが、過去の栄光をすっぱり捨てるのは勇気がいるだろう。
『週刊実話』もヤクザ記事ではパイオニア的存在で、過去、数多くの組織インタビューを掲載してきた。『アサヒ芸能』と並んで一時代を築きあげたといってよく、全国各地の組織を取り上げるところに特色がある。昭和の『週刊実話』は実に破天荒だった。覚せい剤をシノギとしている九州の組織が、それをはっきり公言し、警察から逃亡している親分に「留守は任せてください!」とエールを送っている記事など、いまでは絶対に載せられないはずだ。現在もヤクザ記事をウリにしており、週刊誌の中ではもっとも多方面にわたる記事を掲載している。
暴力団の許容範囲内で原稿を書く「ウオッチャー」
『週刊大衆』が狙うのは山口組だけだ。
他団体の取材をするときもあるが、彼らが狙うのはそこに来訪する山口組関係者である。態度があまりにあからさまなので、こちらが冷や冷やすることもある。取材を担当するのは外注スタッフで、彼らは通称・山口組ウオッチャーと呼ばれる。
山口組ウオッチャーとは、文字通り山口組だけを取材する人間のことで、しかし、組織には直接の取材をしない部分に特徴がある。ウオッチャーの仕事は、あくまでウオッチなのだ。余計なことを知ったところでどうせ書けない。だったら暴力団が許容する範囲で仕事をしよう、という合理精神がこうしたジャンルを生んだ。とはいえ、彼らのほとんどは昔からヤクザ記事を作っていた人間たちで、中には多くの苦難を乗り越えてきた強者がいる。
ファンのような心理状態で取材を続ける記者
「ヤクザはしょせんヤクザや。気をつけなあかんで……」
最も古参の山口組ウオッチャーから、実感がたっぷりこもったアドバイスをされたこともあった。深く関わりあったら火傷する――その忠告が正しいことを、そののち、私は嫌というほど思い知らされた。
彼らのネタは、毎月一回開かれる山口組の定例会で、暴力団が抗争をしなくなってから、「何時何分、●●組長が本家に入った」と、分刻みのレポートをするのが定番となった。書くべきことがない中で、なんとか記事を作ろうとする苦肉の実況中継だ。この模様を監視する警察とも昵懇の仲……というより和気藹々で、暴力団取材という先入観を持ってその様子をみたら、あまりにアットホームで仰天するだろう。持参した脚立に腰掛け、携帯用灰皿を取り出し煙草を吸いながら、手慣れた仕草で組長たちの到着を待っている姿は、まさに一芸に秀でたプロフェッショナルといっていい。彼らの存在なくして週刊誌のヤクザ記事は成り立たない。
警察も例外ではない
彼らは山口組ばかりを追いかけているため、実質、山口組のファンクラブのような心理状態にある。山口組と対抗している他団体のトップが死ぬと、「邪魔者がいなくなった。よかった」と公言するばかりか、山口組の幹部にそう告げたりする。マル暴の刑事たちにもときおり、自分たちが担当する組織に、似たような感情を持っていると感じる。
「我々が取り締まっている組織こそ最強だ」
という気持ちは、自尊心の裏返しに違いない。そう分かってはいても、組織の取材に行って、表で張り込みをしている刑事たちから「ドカンと派手に書いてやってくれよ」と言われると面食らう。福岡県警のように「御用記者が来たぞ!」と警戒されたほうがすっきりする。
そののち、暴力団組織の名称は載せないが、ヤクザの生態を題材の一部とする『実話ナックルズ』や、2匹目のドジョウを狙った『実話マッドマックス』といった新ジャンルの雑誌が登場し、『実話時代』のスタッフが『実話時報』という後発の暴力団専門誌を立ち上げ、私の仕事の場は拡大した。
『実話時代』vs.『実話時報』
暴力団をメインとして扱う雑誌は3誌ある。
『実話時代』は、暴力団専門誌の先駆けでありオピニオン誌だ。一部、時事ネタや情報ページもあるが、読者対策というよりは対外的なもので、具体的にはコンビニエンスストア対策と説明された。構成はまず、最低1本の現役暴力団組長、幹部のインタビュー取材を入れ、2、3本、現役暴力団組織エッセイを連載として載せる。それに暴力団を主人公とした実録小説を2本、元暴力団員の連載コラムを数本掲載するのが定型である。特集はもちろん、暴力団関連の内容である。テキ屋を特集したり、博徒を特集したり、暴力団の未来にスポットを当てたり、昭和の闇市のことを再検証したり、どちらにせよ、毎月ほとんどのページが暴力団社会の記事で埋まる。
ヤクザを対象にした星占い
もともとは総合実話誌としてスタートしており、今の週刊誌同様、スキャンダルを中心とした芸能ネタ、スポーツネタ、政治ネタなどに、エロ記事とヤクザ記事を加えて一冊の雑誌を作っていた。創刊号からしばらくは試行錯誤を繰り返し、苦悩の跡がありありと分かる。ライバル誌との売り上げ合戦の中、当時、人気があったヤクザ記事に特化し、最終的に暴力団のみを扱う雑誌となった。当初は星占いでも「獅子座のみなさんは流れ弾に注意!」と、悪のりしていた。
エロ記事を排除したのは、特化した専門誌となっていく過程で、暴力団たちが嫌がったからという。自分たちのインタビューとエロ記事が隣同士に並ぶと、「あんなもんと一緒にしやがって」とクレームがくるのだ。
私が編集長をしていた頃は、とっくにエロ記事はなかった。しかし、実話誌だけに広告はダイヤルQ2など、ヌード写真を使ったものばかりだ。インタビュー記事の真横に、きわどいヌード写真の広告があると、当事者から「一緒にされたくない」と怒られた。広告ページの置き場所には細心の注意を払った。
各誌が趣向を凝らしたヤクザの描写
『実話ドキュメント』は、そこまで露骨な暴力団専門誌ではなく、エロ記事なども同時掲載する。セックス&バイオレンスという正統路線だ。取材対象も広く、右翼団体などのインタビューも行う。構成は独特でデザインや企画にもカストリ色が強い。
単純に読むだけなら『実話時代』より面白いだろう。『実話時代』は真面目で堅いからだ。それにこの世界の第一人者である溝口敦の記事が載る。いまのところ山口組記事の限界は、溝口が書いたか否か、というラインで決まる。
『実話時報』は、『実話時代』のスタッフが立ち上げたコピー誌だ。編集部員の4分の3が、もともとは『実話時代』を作っていた。その人脈もノウハウも、すべて『実話時代』をパクっている。
親分を裏切る形で立ち上げられた『実話時報』
発刊のきっかけは当時の編集長が会社を解雇されたためで、それに抗議した編集部員が退職して雑誌を立ち上げた。鬱積していた不満が爆発したわけで、その気持ちはよく分かる。『実話時代』の編集部員だった頃、私にも不満はたくさんあった。しかし、それはどの業種でも、どの仕事場にもある類のもので、わざわざここに書くには値しない愚痴だし、育ててもらった恩は忘れていない。
不満はあっても後発誌を立ち上げるという発想はなかった。暴力団社会で親分は絶対の存在であり、そこにどんな理由があろうと裏切り行為は絶対のタブーとされる。建前上、そうした精神構造を持っている暴力団たちが、実質、謀反のような形で発刊した雑誌を好ましく思うはずがない、と考えていたのだ。
フリーライターとなり、『実話時代』を仕事の場にしていた私は間に挟まれ、身の振り方を迫られた。部外者であっても両者と関係が深い。すべては昔の同僚なのだ。最終決断は自分で下さずに済んだ。『実話時代』が、「携帯電話にでなかった。馬鹿にしている」と三行半突きつけてきたのである。おそらく私も旗揚げに荷担したと思われたのだろう。
「裏切り者」にもかかわらず暴力団受けする雑誌
後発の『実話時報』は着実に売り上げを伸ばし、増刊から月刊誌に昇格した。逆風をものともせず、裏切り者の汚名を着せられながら暴力団たちに認知されたのは、編集長が驚異的に暴力団ウケするからだ。
なぜこれほど暴力団から好かれるのか?
具体的な理由を説明するのは難しい。愛嬌のある丸顔で今風のファッション。取材時にはきちんとスーツを着て、人当たりはいいが、それだけでは説明になってない。彼にはこの仕事を行う上で致命的な欠点がある。携帯電話がなかなか繋がらない。ばかりか折り返しすらないのだ。連絡を取りたい時は、まず携帯メールでトラブルではないことをアピールする。その上で電話をかけ、繋がらなければ、諦めるしかない。
都合が悪くなると暴力団からの電話にも出ない。それはもう徹底して出てくれない。自分たちが携帯電話に縛られているぶん、暴力団たちはこちらに対しても、24時間、いささかの遅延もなく連絡がとれるよう要求してくる。それを無視するのだからかなり図太い神経で、こうでなければこんな仕事は出来ないのかもしれない。私はいつも枕元に携帯電話を置いて寝る。着信音量はつねに最大である。
ある年の大晦日、大掃除を終えてテレビを観ていたら関東近郊の組織から電話がかかってきた。
「今日の夜、初詣を取材するって話なのに、編集長と連絡がとれない。どうなってるんだ!」
ヤクザと迎えた年越し
そんな話は初耳だった。すぐさま彼に電話したがもちろん繋がらない。行きがかり上、仕方がないのでカメラバッグを抱え、バイクに飛び乗った。私はその組織と一緒に年越しをするはめになった。
連絡の取れない編集長……最初は語気荒く彼を非難する暴力団たちも、最後には「仕方ねぇよなぁ」と納得する。なにをやっても暴力団から好かれる。こんな仕事をせず不動産の営業マンにでもなっていれば、巨万の富を築いていたかもしれない。
暴力団雑誌にとって大事なのは、現役暴力団が載っているか否か、である。極論すれば記事の内容など稚拙でもかまわない。その点、暴力団賛美であっても極めて真面目な作りの『実話時代』より、組織取材の多い『実話時報』が優位かもしれない。実際、実売部数はすでに『実話時代』を抜いたろう。
(鈴木 智彦)