安倍晋三首相が次を託したい意中の人とされ、「ポスト安倍」の最有力候補と目されているのが、自民党の岸田文雄政調会長である。だが、世論調査では下位に低迷し、「待望論」が湧き上がってこない。
その理由としてあげられるのは、「話が面白くない」といった岸田氏のイメージだ。確かに、岸田氏は一語一語、言葉を模索するように話し、演説も盛り上がりに欠ける。
ただ、「それは外相としての経験によるものだ」という解説がある。強者揃いの各国外相を相手に、わが国の国益や安全を実現していくためには配慮や気配りが欠かせない。そのため、「こう言ったら、この国はどう受け取るか。あの国はどう思うか」と自問自答しながら話すようになったというのだ。
岸田氏は、安倍首相と当選同期だ。若手議員の登竜門とされる党青年局長、議運議事進行係を経験している。さらに、党経理局長を通算3期。自民党の歴史で5指に入るほど長期間務めたが、地味な印象は否めない。
2012年、古賀誠元幹事長の後をうけて宏池会の会長に就任して注目されるようになった。野党時代は国会対策委員長として民主党政権と対峙(たいじ)した。その手堅い手腕が評価され、与党復帰後、外相に抜擢(ばってき)された。連続4年8カ月(戦後最長)、安倍首相の「地球儀俯瞰外交」を支えた。
安倍首相3選の際には「派閥領袖(りょうしゅう)の使命として出馬すべし」との声が上がったが、最終的に政調会長に就任して安倍政権を支える道を選択した。当時、「飛べない男」と揶揄(やゆ)されたが、この2年余り、政調会長として着実に地力をつけてきたことを考えると、案外、賢明な選択だったのかもしれない。
しかし、安倍首相の「4選なし」が確実視されるなか、岸田氏が次の総裁選で「飛ばない」選択肢はないだろう。安倍首相からの「禅譲」を期待する向きもあるが、自民党史上、「禅譲」された例は稀有で、やはり、総裁選を勝ち抜かない限り、政権を手中に収めることはできないのである。
こうしたなか、今年2月、政界と霞が関の開成高校OBらによる「永霞(えいか)会」が発足し、岸田氏が会長、元小泉純一郎首相秘書官の丹呉泰健氏(開成学園理事長)が副会長に就いた。事実上の「岸田氏応援団」である。
岸田氏は6月4日、新型コロナ後の国家戦略を議論する「新国際秩序創造戦略本部」を設置し、自ら本部長に就任した。7月の経済財政運営の指針「骨太の方針」に向けて提言をまとめる方針だ。それが政権獲得に向けた岸田氏の基本政策になるのではないか。
岸田氏の政治姿勢は保守の神髄である「中庸」だ。他人を論破するより、話をじっくり聞き決断するタイプである。それだけに「決断が遅い」「リーダーシップに欠ける」との批判が付きまとう。
しかし、もし政権を射止めることができるとすれば、「動」の安倍政治と対照的な政権となるのは間違いない。それは自民党らしい「振り子の原理」に基づく政権継承といえるかもしれない。
■伊藤達美(いとう・たつみ) 政治評論家。1952年、秋田県生まれ。講談社などの取材記者を経て、独立。永田町取材三十数年。政界、政治家の表裏に精通する。著作に『新人類は検事が嫌い』『東條家の言い分』『検証「国対政治」の功罪』など多数。『東條家の言い分』は、その後の靖国神社公式参拝論争に一石を投じた。