新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、鹿児島市で発生したクラスター(感染者集団)が地元で影響を広げている。感染は市内にある1軒の老舗ショーパブから広がったとみられ、デパートが臨時休業に追い込まれたほか、舌戦が続く鹿児島県知事選にも余波が及んでいる。鹿児島県はこれまで感染者数が比較的抑えられてきたが、突然のクラスター発生に行政や企業などが対応に追われている。
店の名「NEW おだまLee男爵」公表、相談呼びかけ
きっかけは今月2日の鹿児島市の記者会見だった。前日、新型コロナへの感染が分かった市内の40代女性の濃厚接触者らを調べたところ、同居男性1人と勤務先の同僚男性7人の感染が確認された。市は男性らの勤務先を、鹿児島を代表する繁華街・天文館地区にある飲食店(ショーパブ)「NEW おだまLee男爵」と公表し、感染が疑われる利用者に帰国者・接触者相談センターに連絡するよう呼びかけた。
ニュースが流れた2日だけで市民130人からの相談が市に殺到した。県全体で3日に30人、4日には34人の感染者が判明した。県内の感染者数はそれまで11人と低い水準に抑えられていたが、5日時点で98人に急上昇。このうち81人がこの店の関連という異例の事態となった。
市民、出張者でにぎわった「男も女も楽しめる」店
「ショーが面白かった。仕事場の2次会で行ったけど、店も広くて男も女も楽しめる。いかがわしくもなんともなく、特に女性の知り合いが喜んでいた」
「おだまLee男爵」を客として訪れたことのある市内の40代の女性事務員は語る。店は“夜の街”の関係者だけでなく、市民や出張中のサラリーマンらが2次会などで利用する有名店だったという。
それだけに利用客は県外を含めて幅広い。北九州市は4日、出張中に店を訪れていた会社員の男女2人の感染を発表した。鹿児島のお隣の宮崎県も、店を訪れた県民に相談を呼びかけた。鹿児島市から南へ約350キロ離れた奄美大島でも、店名こそ名指ししなかったものの島内5市町村長が連名で注意を呼びかける共同メッセージを発表した。
テナント従業員感染、デパート臨時休業
感染拡大を受けて、同市の老舗デパート「山形屋」は5、6の両日を臨時休業とした。婦人服店のテナント従業員の1人が6月26日に「NEW おだまLee男爵」を訪れ、7月4日に感染が確認されたため、5日は店内消毒作業にあたった。
JR鹿児島中央駅前で屋台26店が軒を連ね、観光客らに人気の「かごっまふるさと屋台村」も、同様に店舗の従業員1人の感染が確認され、5日から臨時休業に入った。屋台村は4月13日~5月20日も感染対策で休業を強いられており、再度の休業になる。
他市にも飛び火、鹿児島知事選にも影響
地元経済への影響だけではない。鹿児島県は今月12日投開票の県知事選の真っ最中。現職と元職、新人合わせて7人が舌戦を繰り広げているが、今回の感染拡大を受けて多くの陣営が集会を取りやめるといった事態に追い込まれている。
鹿児島市内で予定していた大規模集会を中止したある陣営の幹部は「集会をやろうにも『ウイルスを広げるのか』などと非難されかねない。選挙運動がはばかられるようで、今回のクラスターは陣営にとって痛い」と語る。
また、同県枕崎市の病院は、店を訪れた職員4人が感染したと公表し、3日から当面外来診療と入院患者への面会を中止した。同様の例が相次げば、今後県内の医療体制に影響が広がる可能性もある。
「残念ながらあり得たこと、休業補償など対策を」
人口60万人の地方都市で、降って湧いたようにも見える突然のクラスターをどう見ればいいのか。休業を決めた「ふるさと屋台村」理事長の古木圭介さん(77)は「全国的に県境を越えた移動が解除され、東京であれだけ感染者が増えている中で、残念ながらあり得たことだ」と語る。かつて九州新幹線の並行在来線「肥薩おれんじ鉄道」の社長を務め、観光やまちづくりに長く携わってきた古木さんはさらに「コロナで飲食店の疲弊は限界を超えている。同じことを起こさないために、行政は改めて独自の休業補償といった対策を取るべきではないか」と語る。
ためらわず相談し検査、が終息への道
医療関係者からは、相談が殺到し、それが感染確認につながった流れを評価する声も聞かれる。鹿児島市保健所は会見の中で「たくさんの陽性患者が出ているが、不安を抱えたまま検査をしないで町の中で感染が広がるより、早く検査にいってもらった方が終息に向かう。安心して検査を受けられるよう感染者を非難したり特定したりしないでほしい」と語った。【足立旬子、菅野蘭】