マスク姿の人たちが行き交う街頭で、ひときわ厳しい視線を送る。雑踏から指名手配犯を割り出す大阪府警の見当たり捜査員だ。新型コロナウイルスの感染予防で、顔の半分を隠すマスクの着用が当たり前になった「新たな日常」に戸惑いを感じつつも、「目元の特徴は変わらない」と路上に立ち続ける。(水木智)
緊急事態宣言が解除され、人出が戻り始めた5月下旬、大阪市内の繁華街。今春から見当たりに従事する男性捜査員(30歳代)はマスクを着けて歩く長髪の若い女に、ふと目をとめた。関東で貴金属を盗んだとして窃盗容疑で3月に指名手配された女と目元がよく似ていたからだ。別の捜査員と女を呼び止めると、本人と認めたため逮捕した。
捜査員は「マスクで鼻や口を覆っていても、目元は隠せない。目は口ほどに物を言う」と言い切る。
府警捜査共助課によると、見当たり捜査は、数百人以上の顔を記憶し、駅や繁華街に溶け込む手配犯を見つけ出す手法だ。約15人の捜査員は毎日、虫眼鏡を手に顔写真の束をめくり、特徴を頭にたたき込む。顔の傷やほくろの位置、唇の厚さなどは大きな手がかりだが、目や眉の間隔などの目元は整形や年齢を重ねても変わりにくい。マスクを着用しても、目元の印象から容疑者の顔を見分けることができるという。
4月7日に発令された緊急事態宣言により、外出自粛や休業要請が行われ、パチンコ店やショッピングモールなどが次々と休業し、街中の人出は激減した。その間、捜査員たちは外出する時間を減らす一方、宣言解除に備え、数百人以上の写真を繰り返し見て、特徴を脳裏に焼き付ける日々を過ごしたという。
調査会社「日本リサーチセンター」(東京)によると、5月の調査では「公共の場でマスクを着ける」と回答した人は約9割に上った。宣言解除後、ほとんどの人がマスク姿で行き来するようになり、路上の光景は一変。顔の傷痕などの手がかりから手配犯を見分ける手法は難しくなった。
しかし、ベテラン捜査員は「手配犯がこれまでもマスクを着けて変装していることはあり、見逃さないよう技術を磨いてきた」と強調する。「マスクで顔が隠れている人ばかりになって戸惑いはあるが、目元の印象は隠し通せない」と雑踏で目を凝らしている。