新型コロナウイルスの感染再拡大が懸念される中、学校法人「角川ドワンゴ学園」が運営する通信制「N高校」の教育手法に注目が集まっている。平成28年からオンライン授業を行い、不登校や病気で通学できない生徒らの受け皿になっているだけでなく、多忙な生活を送る著名人も在籍。大阪府の吉村洋文知事も関心を示しており、コロナ後の社会における教師の役割や学校のあり方を考える上でのヒントになりそうだ。(吉国在)
先生はいらない?
「N高の取り組みはすごく面白い。私学だからできる部分もあるが、(ほかの学校に)もっと広げていったらいいのでは」
6月末、全府立学校159校でオンライン授業の環境が整ったことを発表した吉村氏は、記者団にこう述べた。
これには理由がある。その4日前、吉村氏はインターネット番組で同法人理事の夏野剛(たけし)、川上量生(のぶお)の両氏と鼎談(ていだん)していたのだ。夏野氏は動画配信サービス「ドワンゴ」社長、川上氏は出版大手「KADOKAWA」取締役なども務める。
吉村氏は番組で、N高のオンライン授業に触発されたのか「先生全員が教える必要はない。うまい人がオンラインで一斉に教えればいい」と主張した。
さらに「突き詰めれば先生不要論になる」として、教師の役割がコロナ後の社会で変わる可能性に言及した。
あの人も在籍
吉村氏も注目するN高の教育手法とは、どういった内容なのか。
学校教育法に基づき28年4月に開校したN高は、「ネット」と「通学」の2コースで全日制と同じ高校卒業資格を取得できる。
沖縄県・伊計(いけい)島(うるま市)の本校のほかキャンパスは東京や大阪、福岡など全国に19カ所。約1万5千人の生徒の中には、「海外遠征と勉学を両立させたい」という女子フィギュアスケートの紀平梨花選手もいる。
今春卒業した2期生は東京大や京都大、慶応大など難関大学にも合格。N高によると、現役生の合格率は8割を超えるという。
N高の教育を特徴づけているのが、ネットを駆使した独自のカリキュラムだ。
必修課程は、一般の教科書を使ったアプリ学習やリポート、学年末試験など。これとは別に課外授業として、大学受験用に大手予備校講師の授業をアプリで生配信し、生徒も質問して双方向で進められる。
また生徒一人一人に担任がつき、ネットツールや電話、ビデオ通話などを通じて学習計画や志望校などの進路の相談に応じる。相談内容はデータベース化し、共有している。
全日制高校からN高ネットコースに転校した3年の野山美鈴さん(17)は「自分のペースで勉強が進められるので合っている。先生が日々支えてくれて心強い」と話す。
「本当のプロ」
大阪府の公立学校は6月に通常授業が再開されたこともあり、オンライン授業の本格実施の見通しはまだ立っていない。コロナ後を見据え、N高の教育はどういった点が参考になるか。
教育政策に詳しく、東京大と慶応大で教授を務める鈴木寛・元文部科学副大臣によると、海外ではオンラインと対面のハイブリッド(複合)に関する議論が主流になりつつあるという。
「N高はハイブリッド型教育のモデル」とみる鈴木氏は「日本はオンライン授業の教材に使えるデジタルコンテンツが豊富だ。公立学校でも活用したほうがいい」と提案する。
ただオンライン授業にも課題はある。鈴木氏は「多感な生徒を机に向かわせ、脱落を防ぐことは対面授業に比べて難しい。N高はそのノウハウを蓄積しているのだろう」と語り、今後の教師の役割を次のように説く。
「グローバル時代の学校は今まで以上に多様な人間関係を構築する場という側面が強くなり、教師は授業をするより、生徒の疑問や悩みに答える役割が大きくなる。生徒のレベルや環境に合わせて対応をカスタマイズすることが不可欠だ」
教師は「本当のプロフェッショナル」(鈴木氏)として、これまで以上に高い資質が求められることになる。