「なんでこんな時期に新聞辞令がでるのか!」
7月15日付の読売新聞とNHKが報じた次期中国大使人事の報道に外務省幹部は驚きを隠さない。政府は外務省官房長の垂秀夫氏(59)を起用する方針を固めたという。
■安倍官邸のリーク
3つの意外が驚きの原因である。大使派遣は通常、相手国からアグレマン(承認=外交用語)を取って閣議決定、ニュースになる。しかし、交渉は始まったばかり。この段階での新聞辞令は安倍官邸の意図的なリークしかありえない。これが第1の意外である。
垂氏は1985年入省のチャイナスクールで外地勤務は北京、香港、台北だけと中華三昧。批判の絶えないチャイナスクールの中では火中の栗を拾うことをいとわぬキャリアらしからぬキャリアと評判は高い。しかし、駐中国大使は今や駐米大使に次ぐ重要ポストで、外務審議官もしくは主要国大使経験者が条件。官房長では番付半枚足りない。この抜擢が第2の意外。
第3の意外は垂氏の働きぶりに起因する。垂氏をよく知る全国紙ベテラン記者は語る。
「小泉政権の日中関係悪化後に戦略的互恵関係を打ち出した中国課長。戦略的な思考を持つ優秀な外交官ではある。しかし本領は大胆な情報収集活動。中国との間で大きな摩擦を起こしてきた」
2008年、垂氏の中国課長就任直前に人民日報傘下の環球時報はスパイを中国課長に就任させるのか、と非難した。非公開裁判で国家機密漏洩に問われ、終身刑となった漢方医が垂氏に中南海の国家指導者連絡先を漏洩していたというのだ。また垂氏は、中国公使在任中の13年には失跡事件を起こし、3カ月後に東京に戻っていたことが明らかになる。
「民主、人権活動家を積極的に支援し当局を刺激。身辺に危険が及び会食の席から空港に直行、緊急帰国したのです」(前出の全国紙ベテラン記者)
これこそが第3の意外である。中国が最も警戒する垂氏をあえて起用し、アグレマンの取れていない段階で一部マスコミにリークした意図は、中国に踏み絵を迫ったということなのである。
「中国がアグレマンを出さなければアメリカと共に対中非難の大合唱。人事をのめば日本外交大勝利と勝ちどきをあげる魂胆だ」(前出の全国紙ベテラン記者)
北京はリークに全く反応を示さず、極めて苦慮していることがうかがわれる。仮に受け入れられたとしても、垂氏は北京でこれまで以上に警戒監視され、得意の情報収集もままならぬ環境に置かれる。官邸の垂氏起用とリークは希代の優れたチャイナスクール外交官を殺してしまうことだけは間違いない。