迷走の末、政府の観光支援事業「Go To トラベル」キャンペーンが22日から始まった。新型コロナウイルスの感染「第2波」が来襲しているときに、政府が旅行の呼び掛けとは、最悪のタイミングだ。
朝日新聞の世論調査(18、19日実施)では「74%が反対」と答えている。東京都の小池百合子知事ならずとも、多くの国民が首をかしげるのは当然だろう。私も反対だ。
私はそもそも、「1次補正予算で1兆7000億円もの予算を計上したこと自体が間違いだった」と思っている。大火事を前にして、火が消えた後の新築祝いを考えているようなものではないか。
そんな話になったのは、経産省や国交省の官僚たちが「コロナは予算獲得のチャンス」と見たからだろう。東日本大震災でも、復興需要にかこつけて「霞が関の庁舎改修」や「文化人の海外派遣」など無関係の事業に予算が付けられた。便乗商法は霞が関の得意技なのだ。
東京で新規感染者が再び増え始めて、どうなることかと思っていたら、「東京発着の旅行や、東京在住者の旅行を除外する」という。これは2重、3重におかしい。
まず、外出自粛を呼び掛けながら、旅行を促すのは矛盾している。次に、国の税金を使うのに、東京在住者だけを差別するのは、税金支出の公平原則に反する。特区政策があるように、特定地域を狙い撃ちするのは、すべてダメとは言わないが、ほぼすべての国民を対象にすべき観光政策では不適切だ。
いまは東京の感染増加が目立っているが、これから大阪など他の大都市で増えたら、どうするのか。東京はダメで大阪はOK、では辻褄(つじつま)が合わなくなる。まるで「コロナさん、大阪に行かないで」と頼んでいるかのようだ。そんな「神頼みが前提の政策」など聞いたことがない。
こんな展開になったのは、政策を立案した官僚の判断が甘いからだ。欧米の例を見れば「2次感染、3次感染があり得る」くらいは分かりそうなものだが、予算が大盤振る舞いになりそうなのを見て、つい「便乗商法の誘惑」に負けてしまった。実に情けない人たちである。
誤解のないように断っておくが、私は観光業界を政策でテコ入れするのは反対ではない。いまの状況が今後、何カ月も続いたら、倒産ラッシュが起きるだろう。
では、どうするか。
1兆7000億円の予算は、旅館やホテルなど観光関連業界に直接補償したらどうか。日本航空や全日空が潰れそうになったら、政府は公的資金投入も厭(いと)わず支援するだろう。航空会社はOKだけど、ホテルや旅館はダメという話は筋が通らない。土産物店や飲食店にも現金を配るべきだ。
いまは非常事態なのだ。
第2波は収まる気配がないどころか、東京だけでなく、大阪など全国に広がる可能性が高い。いまからでも遅くはない。メンツにこだわらず、Go Toは中止したらどうか。政策立案者は便乗商法のようなケチな話ではなく、もっと大胆な支援策に知恵を絞るべきだ。旅行支援は事態が落ち着いてからで十分だ。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。