「『パワハラ問題に取り組む』と言っていた河野太郎防衛大臣と防衛省の対応があまりに不誠実で許せません」
8月7日、文春オンラインが「 退職者続出 陸自の第1空挺団長は“パワハラ”常習者で通称『ハカイダー』 」と報じた直後、ある空挺団関係者からこうした声とともに、情報提供があった。
「金銭管理ができていないやつは自衛隊失格だ!」
この記事は、「ハカイダー」とあだ名される陸自の第1空挺団長、戒田重雄陸将補によるパワハラについて複数の証言をもとに報じたもの。特に波紋を呼んだのが、戒田氏が「金銭管理ができていないやつは自衛隊失格だ!」と激怒し、部下全員の貯金やローンなど、家計について書類を提出させた行為だ。借金を抱えている事実について公衆の面前で罵倒された隊員もいるという。
この関係者は、8月7日に防衛省で開かれた 閣議後記者会見 で、記事について問われた河野大臣が、「事実誤認が非常に多い」「ずさん」と切り捨てたことに憤りを感じたのだと語る。
情報提供された資料は2つ。1つは空挺団の内部文書で、「第1空挺団長」の印が押された指令書で、題名は「金銭管理指導の団統一基準について」。2017年6月29日付で団員が所属する各部隊長に向けられたものだ。
〈隊員の金銭管理状況を把握し、必要な指導を実施する〉
別紙が付いているので、文書から適宜引用しながら内容をご紹介する。
目的は〈部隊および個人の金銭管理指導について統一した基準を定め、各部隊の認識を統一し、部隊並びに個人としての常識ある金銭感覚を醸成して人生計画に資するとともに、健全な部隊勤務が遂行できること〉とした上で、2017年7月3日から運用を開始している。
「金銭管理状況の確認」とされた項目には、〈隊員の金銭管理状況を把握し、必要な指導を実施する。特に、要注意隊員(浪費癖があり、過去に借財歴及び返済困難又は無計画かつ多額の借財を有する隊員)については、(筆者中略)通帳の残金を確認し必要な指導を実施する〉としている。その上で、中隊長が年2回の個人面談をし、金銭管理状況を聞き取りし、〈営内班長等は、毎月1回(基準)実施する金銭指導において、通帳(共済組合)の残金の確認及び防衛省ATMによる定積預金の一部解約等の状況について、確認する〉と記されている。
「拒否できる団員などいるはずがない」
この文書には〈個人情報保護の観点から、隊員に対し、聞き取り(収集)の目的・項目を明示し同意を得るものとし、社会通念上必要と考える個人情報のみを収集することに留意する〉とあるが、先の空挺団関係者は「戒田氏の圧力の下で拒否できる団員などいるはずがない」と話す。
この文書は戒田氏の就任(2018年3月)前だが、別の空挺団関係者はこう証言する。
「この制度が始まった当初は、中隊長などの現場レベルでチェックするという段階でとどまっていましたが、戒田氏が団長に就任してから、『すべて自分に報告しろ』となり制度がより改悪された。金銭管理表の様式は、A3用紙1枚に赤、ピンク、黄、緑、青で危険度の高い隊員を区分けするような内容になっています」
事情を知る陸自幹部が補足する。
「貯金が100万円ない隊員については、名前をピックアップして今後の返済計画を中級幹部に作らせ、戒田氏に逐一報告させていました。そして、各隊長を呼びつけては『こいつの返済計画はどうすんだ』とねちねち指導を繰り返し、できあがった返済計画を回覧していました」
ある空挺団員も、筆者の取材に対してこう証言した。
「結婚していない隊員は、通帳のコピーを毎月提出させられています。さらに既婚者の資産まで厳しく調べ始めたのは、戒田氏が団長に就いてから。中隊長と大隊長の姿勢が露骨に変わりました。『団体生命保険に入っていないとおかしい』という風潮も広まりました」
なお、「金銭管理指導の団統一基準について」については、公文書の開示請求への対応に○印が付いているため、請求すれば誰でも閲覧できる分類の公文書になっている。
ご紹介した文書と証言は、空挺団自体に不必要に隊員のプライバシーを侵害するパワハラ体質があるという事実とともに、戒田氏による隊員の金銭管理が存在した明らかな証拠である。
ハカイダーが「人事教育部長」にならなかった内幕
さて、私に寄せられたご指摘の中で、「戒田氏が人事教育部長にならなかったことは事実誤認だ」とするものがあったが、この内幕についてもご説明させていただきたい。ある防衛省幹部は筆者の取材にこう語る。
「戒田氏は元々、陸自の中でもトップエリート扱いでした。そのため、第1空挺団長→東京地方協力本部長→人事教育部長という王道を歩むはずでしたが、昨年にパワハラ関連の問題を起こしたせいでそのルートは立ち消えになった。実は7月上旬には運用支援・訓練部長になる線が強まっており、人事教育部長とどちらになるか直前までわからなかったのです。そこに文春側から人事発令の1週間前に質問状がきて、さすがに記事が『確実視されている』とした人事教育部長にするわけにはいかなくなった」
2年後には将に昇格し、数万人を指揮する師団長となる
さらに、陸自幹部は、今回の人事についてこう解説してくれた。
「今回の人事で特に若手の隊員から批判が高まっているのは、戒田氏が問題のある人物なのがわかっているのに、河野大臣と防衛省幹部が運用支援・訓練部長という重責に就けたことです。このポストは左遷や降格とはほど遠く、陸自全体の訓練方針を決める上に、災害支援の指揮も担います。激務なのでもともとパワハラ部署との悪評も高かった。パワハラで問題がある人間を就けるようなところではありません。
人事教育部長は階級上は将補(一)で、運用支援・訓練部長は将補(二)なので、降格と言えなくもないですが、これまで超エリートだった人がエリートになった程度。将補(二)になった戒田氏は2年後には将に昇格し、さらに数千人、数万人を指揮する師団長となるのは間違いありません」
結果として戒田氏は人事教育部長に就任しなかったが、問題発覚後も要職に就いていることからもわかるとおり、河野大臣と防衛省がパワハラ問題に対して鈍感であるという事実は揺らがない。
別の陸自幹部は、過度に現場介入を行う戒田氏の指揮官としての資質にも疑問を呈している。
「戒田氏は演習の際、本来後方で指揮すべき大隊長や中隊長を無理やり前線に立たせて『万歳突撃』を強要すると悪名高い。当たり前ですが、そんなことをすれば指揮官は早々に戦死し、現場は大混乱に陥ります。ただ、戒田氏の演習では『特別ルール』として何度も生き返るという非現実な設定が持ち込まれ、もはや自己満足の体たらくです。
これはかつて大日本帝国海軍が大敗したミッドウェー海戦の前に実施した図上演習とそっくりです。戒田氏が将来、師団長や方面総監になれば、中国が攻めてきた場合、『万歳突撃』した指揮官の死体の山が築かれるのではないかと危惧されてなりません」
河野大臣に対する失望感が広がる
そして、記事公開後に筆者に寄せられた声でもっとも多かったのは、河野大臣に対する失望感だ。現役の陸上自衛官からの代表的な声を一つご紹介しよう。
「現在、自衛隊員の河野太郎防衛大臣へ対する期待は非常に大きなものとなっております。大臣自身がTwitterを積極的に活用していることもあり、『彼にDMを送ればもしかして、諸問題の解決に動いて貰えるのでは……』と期待を抱く者も少なくありません。
しかし、河野大臣が正面装備の拡充、組織新設、改編のみに注力することが続き、部外からの忠言を『ずさん』と切って捨てるのならば、その淡い期待ですら早晩霧散することになるやもしれません。
部内で解決できずに部外の方のご尽力に期待してしまうこと自体、心苦しい処もありますが、今後の進展には非常に期待をし、応援させていただきたいと思っております」
これに類した声や情報提供が続々と集まっている。
河野大臣はイージス・アショアの秋田市への計画中止の際にも、実際にイージス・アショアの配備計画を断念したにもかかわらず、報道が出た直後には「フェイクニュース」とツイートした「前科」がある。今回の続報をお読みいただいた上で、前回の筆者の記事のどこが「ずさん」で「事実誤認」なのか、改めてご説明いただきたい。
(松岡 久蔵)