想定外の事態が相次ぐ「災害多発時代」。甚大な被害が広範囲に及び、インフラ整備だけでは対応に限界があることが、これまで災害に襲われた各地の被害状況から明らかになっている。そうした中で注目を集めているのが、人工知能(AI)をはじめとした先端技術だ。7月の九州豪雨でも、被災地の状況を把握するために取り入れられた。果たしてその効果は-。(江森梓)
AIで作業時間短縮
7月3日夜から翌4日朝にかけて、九州地方で局地的に猛烈な雨が降った九州豪雨。国土地理院は発災からまもない4日午後1時には、被災地の浸水状況を示す「浸水推定図」をホームページ上に公表していた。迅速な対応に一役買ったのが、情報解析会社「スペクティ」(東京)のAIを使った解析技術だ。
救助計画の立案や避難所の準備などに利用される浸水推定図だが、従来は国土地理院の職員が手作業でインターネット上のSNS(会員制交流サイト)などから収集した被災地の画像や動画をもとに作成されていた。
だが、今回から情報収集にAIを導入した。SNS上で発信される情報の中にはデマもあるが、AIを使えば、投稿された画像が過去に他の投稿などでも使い回しされているものかどうかを調べるなどして、真偽を見極めることができる。
これにより、「余計な情報が淘汰(とうた)されて手間が省けた」と国土地理院担当者。スペクティの創業者で最高経営責任者(CEO)の村上建治郎氏は「情報収集のスピードを速めることで、助かる命が増える」と強調する。
情報、都市集中の課題も
AIによる解析技術開発のきっかけは、平成23年の東日本大震災だ。当時テレビや新聞では「ボランティアが多すぎて困っている」と報じられていたが、実際に村上氏がボランティアで被災地を訪れてみると、まったく人手が足りていない避難所もあった。一方で、SNSをみると「物資が足りていない」との声もあった。
「マスメディアはそのとき最もセンセーショナルな部分を伝えがちだが、SNSはそれを補完する情報源になりうるのではないか」。スペクティを立ち上げ、AIでSNS上の動画や画像などの情報を解析・収集するサービスを始めた。
課題もある。SNS上の情報発信は人口の多い都心部に集中しがちだ。九州豪雨のように、山間部が被災地で深夜の発生となると、情報量は少なくなってしまう。村上氏は「SNSはあくまで一つのソース。災害時はいろんな情報を重ねて状況を見極めないといけない」と指摘する。
AR駆使で疑似体験
防災に先端技術を取り入れる動きは、他でも広がっている。
気象情報会社「ウェザーニューズ」(千葉)は、実在する風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示する拡張現実(AR)技術を使って、自分がいる場所が浸水したらどうなるかを、スマートフォンで疑似体験できるアプリを公表した。
スマホのカメラ機能を通じて、目の前の景色が浸水した様子を画面上に映し出すというもので、担当者は「わかりやすい体験で水害に対する危機感を持ってもらえれば」と話す。
一方、産官学でつくる「AI防災協議会」は、被災時にSNSに寄せられた投稿をAIなどで分析し、迅速な情報収集や救助、避難などに役立てる取り組みを各地で進めている。
協議会は「ITインフラが整備され、誰もがスマホを持ち、AIの性能があがろうとしている現在、新たな技術・環境を活用することで、災害に対するレジリエンス(対応力)を飛躍的に向上させることができるのではないか」としている。