新型コロナで注目 桐たんす 直せばさらに100年の持続可能性

新型コロナウイルスの影響で自宅で過ごす時間が多くなり、これまでできなかった家の片づけを始めたという人も多い。気になるのが家の奥に眠っていた古い年代物の桐たんす。思い切って処分…はもったいない。磨いて修理すれば元通りピカピカになり、さらに100年は使えるらしい。日本有数の桐たんすの産地、大阪・泉州に“たんす再生”の現場を訪ねた。 (牛島要平)
■80年の汚れも落ちる
大阪府岸和田市にある田中家具製作所の工房を訪ねると、川崎市の顧客から、約80年前につくられた桐たんすが届いていた。全体に黒ずんで古色蒼然(そうぜん)。細かい傷も目立つ。
「100年前のものでも直せば末永く使い続けることができるのが桐たんすなんです」。同社の田中由紀彦社長(58)がそう話しながら、「洗い替え」と呼ばれる桐たんす再生の様子を見せてくれた。
洗い替えは晴れた日に始まる。金具を外し、屋外で沸騰させた熱湯をかけながら、たわしで丁寧にゴシゴシ。たんす1つ当たり1~2時間かかる重労働だ。木目に沿って磨けば、岩石の粉「砥の粉(とのこ)」が塗られているため、汚れが落ちやすい。家のほこりや手あかなど80年間の汚れがみるみる浮き出てきた。
「たんすが気持ちよさそうでしょう。無垢(むく)材を使っている桐たんすだからこうして洗えるんです。加工した板を張り合わせたたんすではこうはいきません」と田中社長は強調した。
■新品同様に再生
洗ったたんすは約2日間、屋外で乾かす。その後、屋内に移し、洗っても取れない汚れをかんなをかけて薄く削り取る。欠けたり割れたりした部分には新しい木を埋め込む「入れ木」をして補修。いずれも繊細な技が要求される。
伝統工芸士の粟田敏幸さん(44)は同じ工房で働いていた父から技を受け継いだ。「良いたんすは年月がたってもゆがみがなく、内部の気密性が保たれている。自分も100年後にたんすが戻ってきたときに恥ずかしくない仕事をしなくては」と語る。
補修を終えたたんすは再び砥の粉などの塗装を施し、金具は磨き直すなどして再び取り付ける。これで洗い替えは完了。古いたんすが見違えるほど新品同様に生まれ変わった。一つのたんすの洗い替えで2カ月程度かかり、料金は傷み具合などにより20万~50万円程度という。
■家族の思い出を未来にも
洗い替えに出されるたんすにはそれぞれ家族の大切な思い出が詰まっている。
大阪市住吉区の会社員、上原依里子(えりこ)さん(37)は、2年前に祖母の山口静江さんが95歳で亡くなり、静江さんが持っていた桐たんすを同社に洗い替えに出した。静江さんが母(上原さんの曾祖母)から受け継いだものだという。
「引っ越しのときは渡し船に乗せて運んだものだよ」と話してくれた静江さん。「お嫁に行くとき、このたんすをもらっていい?」と上原さんが聞くと、「持っていきなさい、洗ったらまだ使えるよ」と答えてくれたのを覚えている。
譲り受けたとき、たんすは引き戸に傷がつき、取っ手の金具が取れるなどボロボロ。全体にゆがみ、引き出しも開閉しにくかった。そこで、たんすの思い出をじっくり聞いてくれた同社に洗い替えを依頼し、現在は着物のほか大事なものを入れている。上原さんは「たんすがあると祖母を思い出す。直してもらってよかった」としみじみ語る。
上原さんのように同社に寄せられる洗い替えの依頼は従来、月2~3件だったが、新型コロナウイルスの感染が拡大した今年4月ごろから急増している。9月に入っても上旬だけで10件以上の依頼が入っているといい、田中社長は「ステイホームで家を片付けたのをきっかけにした相談が多い」と話す。
一方、桐たんすの市場は、住宅の洋風化や核家族化などで縮小傾向にあり、たんすの国内販売数は平成22年の約5万6千個から昨年は半分以下の約2万個に激減。そこへ新型コロナが追い打ちをかけている。同社も百貨店が臨時休業するなど販路が絶たれ、同社の今年3~4月の売上高は前年同期比7割も減った。
現在は洗い替えの需要が大きな支えとなっている。同社の8月以降の売上高は前年同期比6~7割の水準にとどまっているが、「やはり洗い替えの需要がないと厳しい」とこぼす。
今後は、少子高齢化などの影響で空き家を処分するときに、出てきた古い桐たんすの洗い替え、リサイクル需要を掘り起こしたい考えだ。「桐たんすの良さを多くの人に知ってもらい、長年培ってきた優れた技術を後世に残したい」。職人の仕事を見つめ続ける田中社長の悲願だ。