高さ9メートル 残された土砂の山 建設残土撤去訴訟、発注者の連帯責任認めず

山口県下関市の男性が、所有地に無断で放置された建設残土の撤去を、工事の発注者であるスーパー経営会社などに求めた訴訟の判決が1日、福岡地裁小倉支部(植田智彦裁判長)であった。工事の発注者は、業者に残土処理も請け負わせており、土砂の所有権は放棄しているとして原告の請求を棄却した。
原告の金山三郎さん(71)によると、2008年4月に資材置き場として所有地を業者に貸したところ、スーパーの建設残土が運び込まれた。09年3月には、土砂の中にコンクリートや鉄骨などの産業廃棄物も混じっていることに気づいたという。
同年4月、土地の賃貸契約が切れた後も、撤去されるはずの土砂は放置され、業者とは音信不通となった。金山さんは工事の元請けや下請け業者7社を相手取り提訴。広島高裁は、判決で業者らが土砂を搬入したことを認めたが、金山さんに直接土地を借りた業者以外は土砂の所有権がないとして、不明となった業者のみに撤去を命じていた。
今回の裁判で原告側は、土砂が運び出された土地で現在、スーパーを経営している会社などに土砂の所有権があり、撤去する連帯責任があると主張。被告側は、土砂などがスーパー新築による廃棄物とは証明できず、たとえそうだとしても所有権は工事の受注者にあり、撤去する責任はないと反論していた。
判決で植田裁判長は「被告は、工事と共に土砂の処理も業者に請け負わせており、土砂が搬出された時点で、その所有権を放棄したとみるのが相当」として、原告の請求を棄却した。原告側代理人の池上遊弁護士は「司法が(残土処理の)解決方法を示すことを放棄している」と話した。【佐藤緑平】
原告・金山三郎さん「こんなに置きっぱなしに」
下関市豊浦町黒井。県道244号沿いに、高さ9メートルほどの小高い丘がある。上部には雑草が生い茂り、土の間からは、埋められたコンクリート片や鉄材などの産業廃棄物が見える。
「まさかこんなに置きっぱなしになるとは」。原告の金山三郎さん(71)は、途方に暮れる。一時的な土砂の置き場として業者と契約後、業者は所在不明となり、土砂の山だけが残された。
金山さんは責任の所在と撤去をこれまで求めて続けてきた。裁判に専念するため、仕事も辞めた。工事、運搬に関わった業者らに対する訴訟では主張が一部認められたものの、高裁が土砂の撤去を命じた相手とは連絡がつかない。台風などの自然災害に襲われるたびに、土砂が崩れる不安が脳裏をよぎる。行政や警察に訴えても、私有地のため撤去への道筋は見つからなかった。そして、福岡地裁小倉支部の判決は、工事発注者には撤去の責任はないとする判断だった。
土砂の山が生まれて11年。契約に反した業者が所在不明となった場合、誰がその責任を負い、安心できる日常を返してくれるのか。金山さんは不安な目で山を見上げた。【佐藤緑平】