北朝鮮による日本人拉致事件から40年余り。政府が認定している拉致被害者17人のうち5人がいる新潟県では、事件の風化を阻止しようと、新型コロナウイルス禍の中でも多くの取り組みが行われている。新潟県の自民党県議による拉致議連は13日、被害者全員の救出を改めて心に刻むため講演会を開催。県も、大学生に拉致問題を理解してもらうためのセミナーを開催し、事件に関心を持ってもらう努力を続けている。(本田賢一)
コロナ禍と風化
同拉致議連「北朝鮮に拉致された国民の救出を支援する新潟県議の会」の幹事長を務める桜井甚一県議会議長(68)は「コロナ禍で事件の風化がさらに進むことを懸念している」という。会長の柄沢正三県議(65)をはじめ、他の自民党県議のメンバーも同じ思いだった。
「日本の主権や、日本人の生命、財産を守るんだという思いで取り組みを強化していく」。桜井氏の言葉に一段と力がこもる。
新型コロナが、拉致問題解決を求める活動に与えた影響は大きかった。例年は2回開催されていた拉致被害者全員の帰国実現に向けた「国民大集会」が、今年は24日にやっと1回目が開かれることになった。家族会、救う会のほか、菅義偉(よしひで)首相も参加し、拉致問題解決の機運を全国的に高めるが、密な状態を避けるなど新型コロナ対策を徹底したうえでの開催となる。
こうした中、同拉致議連は13日に、外務省アジア大洋州局の石月英雄参事官を招き、新潟市中央区の同党県連で拉致問題に関する講演会を開催。講演後、横田めぐみさん(55)が拉致された新潟市中央区の現場を視察し、拉致問題解決への思いをあらためて心に刻み込む。密な状態をつくらず、感染症対策をしたうえでの開催だ。
被害者に募る不安
県は9月7日、新潟市西区の明倫短期大学で、歯科技工士や歯科衛生士を目指す学生約60人を対象に「拉致問題啓発セミナー」を開催した。講演者の前には、飛沫(ひまつ)飛散防止用の透明なプレートを設置。参加者の席の間隔を空け、手指消毒やマスク着用など、コロナ対策を徹底した。
演壇では、拉致被害者の曽我ひとみさん(61)が拉致された当時の様子を詳細に明かし、拉致問題の解決と風化防止を熱く訴えかけた。
「5人の拉致被害者が平成14年に帰国して以降、誰一人として帰国できずにいる現実に、いらだちを覚えています。進展がないまま、時間だけが過ぎている感じがします」
「被害者家族の間に不安材料がどんどん積み重なっています。家族による救出活動が高齢化に伴って支障をきたすようになってきたこと、拉致問題の風化が懸念されることなど、挙げたらきりがありません」
真剣なまなざしで聞き入る学生を前に、曽我さんはこう結んだ。
「もし被害者家族が署名活動をしていたら、名前を書いていただけたらと思います。その一筆が被害者を取り戻すための助けとなります。また、今日聞いた話を友人、知人に話していただき、この問題がまだ解決していないことを教えてください。一日も早く、一人でも多くの拉致被害者を取り戻すため、お力をお貸しください」
講演を聞いた同大歯科技工士学科1年の女子学生(20)は「拉致問題はこれまでテレビで見る出来事でしたが、講演を聞き身近に感じました」と話した。
コロナ禍の中で、県内の複数の大学から同セミナーを開催してほしいとの要請が県に来ており、調整を進めている。こうした動きが広がることを期待したい。