奈良県が財政悪化の5市町に「重症警報」 データ公表、危機的状況の改善促す

奈良県の荒井正吾知事は11日の定例記者会見で、2019年度の普通会計の決算状況が特に悪いと認めた5市町に、病に例え「重症警報」を「発令」した。危機的な財政状況を住民に知らせることで、市町長が積極的に改善に取り組むよう強く促す狙い。人件費や公債費(借金返済費)、貯金にあたる基金残高などの詳細なデータを表した5市町の「財政カルテ」も公表し、要因も示した。【久保聡】
警報が発令されたのは、奈良市▽五條市▽宇陀市▽平群町▽河合町の5市町。県は今後、5市町の職員との「合同勉強会」を設置し改善策を検討、市町長に提案する方針。荒井知事は会見で「(財政改善に)自発的な努力がないところもある」とし、「入院しなさいということ」と語気を強めた。県によると、同様の取り組みは全国でも例がないという。
住民税や地方交付税などの歳入のうち、人件費や公債費などの歳出が占める割合を示す「経常収支比率」は、高いほど財政が硬直化するが、奈良県の市町村平均は全国平均より高い。県は以前から、この比率を基に「要治療」「重症」などと病に例え、市町村の財政状況を示してきた。だが、改善は進まず、11日に発表した19年度決算でも県平均は98・0%で、全国平均(93・6%)を大きく上回った。
そこで県は、強く改善を促すため、経常収支比率や借金の大きさを表す「将来負担比率」など4指標について県内市町村の数値を示し、複数の指標でワースト5に入った5市町に重症警報を発令した。
「財政カルテ」も提示
同時に示した5市町の「財政カルテ」では、財政状況が悪い要因も指摘。例えば、奈良市は職員数が多く専門職員の給与水準が高いなど人件費が膨らんでいることや、施設の建設などで地方債(借金)が増加し、財政に占める公債費の割合が高くなっていることなどが要因とした。
県も市の人件費が膨らんでいる詳細な理由は把握できていないといい、近く設置する「合同勉強会」では、具体的な現状を把握し、課題を洗い出すことなどを通して改善策を検討するという。ただ、県が市町村に強制的に指示できる権限はなく、地方自治法の「助言」の形で方策をまとめ市町長に提案、実施を働きかける。
県では、そうした市町が財政改善に取り組む過程で、必要であれば無利子貸し付けなどの財政支援も検討するとしている。
対象となったある自治体の財政担当者は、取材に「財政状況が良くないとの認識はもちろんあり、行財政改革を実施しているところ。合同勉強会で県の話も伺っていきたいが、『重症警報』との言葉はきつく、住民に不要な不安を与えてしまうのではないか」と話した。