6月11日、武藤薫、飯田正志、五十嵐文昭ら詐欺グループが神奈川県警捜査2課に逮捕された。2017年9月から18年12月まで、10回にわけて会社役員に計31億5280万円を振り込ませたという。
この騙された会社役員というのが一代で巨大飲食店グループ、株式会社コロワイド(神奈川県横浜市)を築いた蔵人金男代表取締役会長だったことに加え、その手口がいわゆる「M資金」だったことが週刊誌やネットメディアを騒がせ、はては東京商工リサーチにまで〈コロナ禍で復活!? 経営者を狙う「M資金」詐欺〉と取り上げられている。目下、蔵人会長は3人に対し民事訴訟を提起。10月20日にも東京地裁で第2回口頭弁論手続き実施予定だったが、急きょ延期になっている。
なぜ蔵人氏のようなやり手経営者が30億円ものカネを詐取されたのか。いやこのような経営者だからこそ騙されてしまうのが「M資金」なのだ。
M資金のMは連合国軍総司令部(GHQ)のマーカット少将のMなど諸説はあるが、戦後、GHQが旧日本軍から接収して、極秘に運用されている架空の秘密基金。3000億円規模がだいたい相場か。この巨額の闇資金を企業経営者に無利子や低利で融資すると持ちかける。詐欺グループはもっともらしい資料も用意する。経営者ならではの自己承認欲求をくすぐりながら、経費が必要だなんだとカネをひっぱる。秘密資金であるため経営者は第三者にはむしろ相談しないまま、結局、融資は実行されない。
「昭和の亡霊」は令和でもさまよう
過去では全日空の大庭哲夫社長の一件があまりにも有名だ。
全日空はロッキード事件の渦中にあり、1976年3月3日の衆院予算委員会で大庭氏は社長を辞任した理由が「M資金」だと追及されてしまった。土金賢三警察庁刑事局長も「全日空株式会社常勤顧問の長谷村資氏から全日空社長名の3000億円の融資斡旋依頼書などが鈴木明良を通じて人手に渡っているので、回収したいがどうしたらよいか、こういう相談を受けました」と答えている。大庭氏は社内の権力闘争の最中にあり、資金が必要だったとされる。
昭和から平成と時は流れるが、依頼書にサインするゼネコンや地銀の経営者などが後を絶たない。実はサラリーマン経営者の場合、カネを詐欺師に巻き上げられなくても確約書を書いた時点でアウトである。念書や確約書がマスコミに流出でもすれば、詐欺話に騙されたアホな経営者として、社内でワッペンを貼られるからだ。
詐欺師はそのためにわざわざ社名入りの便箋に名刺をはりつけさせて割り印を押させ、会社から社長自ら依頼書をFAX送信させる。もうガッチガチの申し込みだ。あとで騙されたと気づいても、経営者はこの恥ずかしい依頼書をマスコミに流出させないよう、時には詐欺師にカネをゆすられる。詐欺というよりは脅迫まがいの荒っぽい手口だ。蔵人氏は正面切って裁判を起こしているが、たたき上げの創業者はさすが違う。
■カネがなくてもひっかかる
そういう話ならば、自分は大丈夫だと中小企業経営者や一般の方はお考えかもしれない。しかしそれは甘い。
記者が以前取材したり、相談を受けた巨額資金話では、お金がない人もカモになっていた。
吉田茂のドイツマルク換金詐欺、海底に沈んだ海軍病院船第二氷川丸のサルベージ話、ナイジェリア・オイルマネー回収詐欺だ。
「吉田茂」はM資金でも使われる人気者。吉田の遺族が所有する戦前の古いドイツ・マルクを水面下で換金するため協力すれば融資するともちかけた。
「第二氷川丸」は、沈没した病院船に眠る財宝を引き揚げるために資金を提供してくれという話。
最後の「ナイジェリア」は、内戦の起きたナイジェリアから日本の石油開発会社の現金を日本に運ぼうとしたが、FBIによってロンドンで足止めを食って塩漬けになっている。供託金を積むため資金提供してくれれば、何倍もの報酬を渡すというもの。記者は事前にある男性から相談を受け、やめるよう言った。しかしアドレナリンが出まくって目を輝かせた男性はカネはなかったのに、悩んだ末に知人に300万円を借り海外送金をしてしまった。この男性に話を持ってきた寺の住職ら複数人で合計1億円ほどのカネが海の向こうに消えたという。言わんこっちゃない。
戦争と巨額資金は詐欺師にとってもロマンチックなテーマだろう。在日米軍基地の跡地利用も詐欺ネタで使われやすい。M資金という名称をあからさまに使用していなくても、「M資金的」詐欺は形を変えて現れるのだろう。