◆破滅的エピデミックの加速がなぜかひとまず止まった11月末
前回の記事から既に10日ほど経過しましたが、統計の乱れの中に原因不明のエピデミック進行にブレーキがかかる現象があり、評価にはあとしばらくかかると記述しましたが、現状は概ね把握でき且つ、原因も推測できました。今回は、それらを中心に論じます。
11月連休前の筆者の控えめな見積もりでは、倍加時間14日として11月末に日毎新規感染者数は、人口の25ppmとなり、年末の御用納めの頃には100ppmとなって、本邦は欧州の10月初めと同様になり、謎々効果も無効となって1月は地上の地獄となる可能性示唆していました。
しかし11/21からの三連休を過ぎて、突然、日毎新規感染者数の増加傾向が急減速し、第3波エピデミックは、峠を越えたという評価をする方も現れました。その見方も正当性はあったのですが、今回はその変化の理由が全くわからず、しかも統計の乱れによって傾向の見極めも困難として判断保留としたのが前回記事の結びとなりました。
◆全期間の統計が一新されたOWIDで現状をみる
今回、いつも使っているOur World in DATA(OWID)においてCOVID-19では、統計のデータソースが変更になったことと、それに伴う全統計の更新によって統計の乱れがほぼ一掃されたこと、時間の経過によって本邦の第3波エピデミックSurgeについて非常に分かりやすくなりました。まず日毎新規感染者の日韓統計をRaw DATAと7日移動平均で示します。
7日移動平均を見ると、11/23を境に本邦の日毎新規感染者数は、減少、横ばい、再増加、横ばいと複雑な挙動をしています。ここから法則性を見出すことは難しいのですが、幸い、データソースがECDCからJHUに変更となったことで本邦のデータ提出遅れによる統計の乱れが一掃されました*。この為、今日では7日移動平均を取っていないRaw DATAでも傾向をみることが容易となっています。
〈*合衆国東海岸時間は、欧州中央時より6時間遅れており、本邦のデータ提出が遅刻し難いことと、JHUが遅刻データの復原をしているものと考えられる〉
◆第3波エピデミックでの新規感染者数変化率をみる
ここで第3波エピデミックの期間である2020/09/01以降のみを切り出します。100万人当たり日毎新規感染者数(ppm)と二週間変化率(%)*を比較してみましょう。
〈*任意の日から2週間の値の合計と、その前2週間の値の合計の変化率である。一週間変化率もあるが、休日などの影響を軽減する為と統計の精度の兼ね合いもあるため、筆者は基本的に二週間変化率を採用してきている。OWIDも二週間変化率を初期から採用している。東京都は以前、二週間変化率を公表してきたが、第2波エピデミックが深刻化する過程で突然二週間変化率の公表を取りやめたことを筆者は記事中で強く批判している〉
日毎新規感染者数の推移は、曜日変動が綺麗な規則性を持っており、前週同日比*を追うと傾向がよくわかります。一方で、よく報じられる前日比には殆ど意味がありません。本邦の場合、明らかに11月の3連休明けである11/24(火)前後から前週同日比の伸びに強いブレーキがかかっていることがわかります。但し、3連休効果もあって注意を要します。11/28(土)頃になると日毎新規感染者の倍加時間がたいへんに長くなっている(増加率が下がっている)ことが明らかとなり、実効再生産数の計算法によってはR0≦1となり第3波は謎の収束に移ったと喜ぶ向きもありましたが、筆者はその考えは誤りだろうと評してきています。本連載でも基本的に第3波の増加傾向は大減速しながらも継続していると言う見解を継続してきています。
〈*その日と前の週の同じ曜日の比較〉
明らかに11月下旬を持って第3波エピデミックの勢いは大きく下がっており、その変化と原因を見定める為には12月初旬までかかると言うことを筆者は論じてきました。現在筆者は、倍加時間50~60日程度(最盛期には倍加時間11~12日程度)で第3波エピデミックは進行中であり、クリスマスと年末年始、今後の自粛疲れ、寒さが厳しくなることから、先の見込みは変わらず暗いとしています。謎の第3波エピデミック進行速度の減速によって恐らく一月強ほど本邦は時間を稼いだことになりますが、その間に公的介入を主としたエピデミック収束策をとらねば1月2月にはたいへんなことになりかねません。そういった中、菅政権、自公維新は国会を閉じてしまいました。とんでもないことです。
菅政権と自民党、公明党、維新は、ウィルスとの戦いの中で敵前逃亡してしまいました。これは許せないことです。
◆11月中頃の「急ブレーキ」
ここで二週間変化率をみると、本邦における第3波エピデミックの最盛期は、10月下旬から11/23迄であったことがわかります。この時点で最短倍加時間*は、11~12日程度でした。このことは一週間変化率からもわかり、本邦における第3波エピデミックは、10月下旬から11月下旬までの一ヶ月が第一の最盛期であったと考えて良いです。
〈*倍加時間とは、ある数(量)が二倍になるまでの時間。この場合は、日毎新規患者数が二倍になるまでの時間。ドラえもんのバイバインの話では、「くりまんじゅう」の倍加時間が5分であった〉
なお本邦におけるPCR検査数(人数)は、慢性的に過少です。現在は検査数が1万人から5万人強の間を週間変動しており、千人から二千五百人の新規感染者数に対して本来はあと10倍の検査数が求められます。これは検査漏れによる発症者、無症状感染者の見落としを防ぐ為*で、本邦以外の全世界における共通認識です。但し現実にはもっと深刻な問題があり、筆者は本邦の統計は5月から既に壊れていると判断していますが、示度と割り切った上で目安として使っています。
〈*計測の知識や経験があれば、例えばデジタル・ストレージ・オシロスコープのサンプリングレートを考えれば良い。サンプリングレートが測定現象の周波数の10倍を割り込むとサンプリング負けして、正しい波形を再現することが難しくなる。特に非定常現象の場合は10倍でも足りない。現在見ている現象も非定常現象である〉
当然ですが、実際に生じた感染と言う現象は、統計に10~14日程度先行しますので急速な感染拡大は10月初旬に始まり、11月中ごろに何らかの急ブレーキがかかったことになります。一体何が生じたのでしょうか。
本稿では、第3波エピデミックの激化とその停滞について一仮説を論じて行きます。
◆統計の示す現実は何か
ここまでで、11月下旬の3連休明け後に本邦におけるエピデミックSurgeは、その勢力を大きく減じたことを示してきました。これはどのような現実を示しているのでしょうか。
実は、統計に現れる新規感染者の発生は、約2週間前に生じた現象を示しています。COVID-19は、ウィルスに暴露されるとすぐに発病する訳ではありません。ウィルスへの暴露をDay 0とすると発病する場合は平均して次のような推移を辿ります。ウィルスに感染した人の7~8割程度は、発症しないとされています。
Day 0 ウィルスに暴露
Day 3~4無症状感染者としてウィルスをまき散らす(発病しなければウィルスの拡散者にならないとされる)。PCR検査、で陽性反応となる。遅れて抗原検査でも陽性反応となる。
Day 5発症(発症直前にウィルス拡散能力が最大となる)
Day 8~10本邦ではこの頃に行政検査・医師会検査が行われる
Day 9~12本邦では、この頃に統計に反映される
Day 15以降 PCR検査、抗原検査による感染検出が困難となる。抗体検査の併用が好ましくなる。ウィルス拡散能力は大きく低下する
統計からは、二週間変化率が大きく減少し始めたのが11/24です。この9~12日前は、11/12~15となります。ここで大勢市民で行動が大きく変容した何かが発生したと考えるのが妥当です。そこで移動傾向(モビリティ)を見ますが、日本全体、主要都市で11月中旬に移動傾向が大きく変わった事実はありません。札幌市は、医療が破綻するほどのエピデミックSurgeに見舞われて、移動傾向が下がっていましたが、これは例外です。移動傾向は関係ないことが統計からはわかりました。
筆者はここで困ってしまいましたが、ここで11/14にGo To Eatのポイント事業が突然中止になったということをzoom会議中に友人が教えてくれました。ああ、それだ・・・・・。
◆欧米でも「GoToEat」様は感染拡大に繋がっている
良く知られるようにGo To Eat Point (GTEP)事業では、制度設計が甘かった為に使った金額以上のポイントがゲットできるなどでポイント錬金術があっという間に広がり、10月中旬にはポイント還元の見直しが行われています*。
〈*GoToイート、一部見直し検討 「錬金術」批判を受け2020/10/07朝日新聞〉
実は、屋内のレストランは、BarやKaraokeと並んで、最悪のウィルス感染の場になり得るとして米欧ではオープンカフェ、テイクアウト(お持ち帰り)、デリバリー(出前)への業態転換が強く進められ、屋内営業は厳しく規制されてきました。そういった中で英国ではGo To Eat事業に類似した”Eat Out Help Out”事業が8月限定で実施され「大成功」しました*が、その後英国は深刻な第2波エピデミックSurgeに見舞われ、”Eat Out Help Out”事業がその大きな一因でないかと指摘されていました。結局10/4にBBCの討論番組中でボリス・ジョンソン首相は、”Eat Out Help Out”事業がウィルス拡散の一因となったことを認めました**。英国は9月中旬から社会的行動制限を段階的に発動しましたが、遂に11/2から4週間のロックダウンを大部分の地域で再導入することとなりました。結局”Eat Out Help Out”事業の成果は9月10月に吹き飛んでしまい、成果はマイナスとなってしまいました。
〈*Eat Out to Help Out: Diners claim 100 million meals in August 2020/09/03 BBC〉
〈**イギリス版Go To Eatが「コロナ感染拡大の一因に」、英首相認める 2020/10/08 ニューズウィーク日本版、日本はまだ「GoTo」推進するの? 英仏の失敗例に学ぶべし2020/11/14日刊ゲンダイDIGITAL〉
本邦のGo To Eat Point事業は、その還元率の高さから大人気で家族連れや仲間同士で外食に繰り出す人がたいへんに多く、TwitterなどのSNSでも、「戦果」を誇る発言がたいへんに多く見られました。筆者は、合衆国ですらBar, Karaoke, 屋内営業のレストランには厳しい規制(レストランの屋内営業には定員の20%程度を上限とする事例が多い)がなされ、エピデミックSurgeが起これば真っ先に営業中止となる実態を毎日CNNやBBCの報道で見ています*ので、「大丈夫かな、まずいな」と警戒していました。家族サーヴィスなど動機はとても良く理解できますが、3週間後が怖いのです。ごちそうを楽しんだ後に、ICU(集中治療室)の中で横たわることになったら目も当てられません。
〈*Restaurant dining linked to Covid-19 risk in CDC study 2020/09/11 CNN〉
本邦と異なり合衆国では、CDC(合衆国疾病予防対策センター)がレストランだけでなく社会活動上での感染リスク*や、レストラン運営上のガイダンス**を詳細に公開しています。トランプ政権は経済再開に軸足を置いていますし、合衆国市民は私権への公権力の介入を極端に嫌います。であるからこそ、政府は市民に対して情報とガイダンスを積極的に公開しています。
〈*Community and Close Contact Exposures Associated with COVID-19 Among Symptomatic Adults 18 Years in 11 Outpatient Health Care Facilities 2020/09/11 MMWR〉
〈**Considerations for Restaurants and Bars 2020/11/18 CDC〉
そういったリスクを伴う事業が、Go To Eatなのですが、特に還元率の高いGo To Eat Pointは短期間での利用者がたいへんに多いものでした。結果として事業費616億円を使い尽くし当初1月下旬までの事業予定が突然11/14から順次中止となってしまいました*。一部、11月末まで事業継続していた事業者もありましたが、殆どの事業者は、11/14~16に事業終了しています。延べ利用者は、少なくとも7,000万~8,000万人程度と推測され、事業としては大成功と言えます。
〈*GoToイート早くも終了へ ポイント付与、予算底つく2020/11/13朝日新聞〉
◆急ブレーキはあったがいまだ感染拡大は止まらず
さて、本邦における第3波COVID-19エピデミックSurgeは、11/24より急ブレーキがかかっています。既述のようにこの現象に対応して誤差を入れて11/14±2日から本邦市民に感染リスクを激減させる行動変容が継続的且つ全国的に生じたと考えられます。しかもBig DATAによるモビリティの全体変化に現れ難い形でです。
この条件に適合性が高いのは、Go To Eat Pointであると筆者は考えます。もちろん現時点では証拠不足ですので、あくまで仮説に過ぎません。しかし、経済対策の目玉であったGo To Eat Pointが予算の追加無く突然終了してしまったこと*、新型コロナウイルス感染症対策分科会が11/12に開催されている**など非常に胡散臭いです。
〈*Go To Travelが示すように、本来は予算が追加されるものである〉
〈**相変わらず禄な資料が公開されておらず、透明性がきわめて低く論外である〉
英国のEat Out Help Outや、合衆国の大失敗を見ればわかるように、市民の大規模な行動変容を伴う経済振興施策は、大規模なエピデミックSurgeの引き金になる可能性があります。
本邦における第3波エピデミックSurgeについては、今回の失敗を透明性確保の上で解明せねば、また同じことを起すことになります。なお、今回一旦急ブレーキのかかった第3波エピデミックSurgeですが、残念ながら収束には向かわず、日毎新規感染者が20ppmと高止まりしたまま再度増加の傾向を見せています。結果、医療現場には高い圧力がかかり続け、ウィルスに医療が圧倒される危機は、ますます高まっています。
倍加時間そのものは最盛期の11-12日と言う危険な状況に戻るかはわかりませんが、情報が不透明なままだと市民は2~4週間程度で自粛疲れを起します。またこれから気候は寒くなるため、屋内活動が多くなり且つ、クリスマスと年末年始と言う移動傾向と対人接触を大きく増す大形イベントが控えています。
日本政府と大多数の自治体は、これまで失敗ばかり積み重ねてきており、せっかく謎々効果で守られている本邦を東部アジア・大洋州諸国の中でワースト4にしてしまっています。既に謎々効果による優位性は乏しくなってきており、このままでは謎々効果のない欧州の仲間入りもあり得ます。
◆「ワクチン」が届くまでに日本はどうなってしまうのか
英国ではすでにワクチン優先接種が始まり、合衆国やカナダでもまもなく優先接種が始まりますが、これも本邦では透明性が著しく低く何をどうしようとしているのかわかりませんし、COVID-19ワクチンは、初回接種から免疫完成までには6~8週間かかるとされています*。合衆国では12/10夕刻にFDA(食品医薬局)によりファイザーのワクチンが緊急認可されましたが、ワクチン接種の効果が社会的免疫として発現し始めるまでには4月までを要するようです**。
〈*ファイザー、モデルナ、アストラゼネカのCOVID-19ワクチンは、第1回接種の4週間後にブースター接種を行い、その2~4週間後に免疫が完成するとされている。結果、接種による免疫完成には6~8週間を要するとされる。また、BBC Hard Talk中のファウチ博士発言によると、集団免疫の完成には接種率75%という達成困難な高い接種率を要する〉
〈CNN Tonight Don Lemon 2020/12/10 (EST)番組中の専門家発言より筆者試算〉
ワクチンと言う騎兵隊はまもなく到着しますが、せっかく騎兵隊が到着しても既に黒焦げの焼け野原か火の海と言う情けないことにならないよう、日本政府は現在の反科学・エセ医療政策から直ちに脱却せねばなりません。ホワイトハウスの反科学政策で混乱の極みにある合衆国は、2021/01/20正午を持って一変する予定です。
◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ32:迫り来る地獄4
<文/牧田寛>
【牧田寛】
Twitter ID:@BB45_Colorado
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中