ドナルド・トランプ前大統領の退任間際に起きた米国内の騒乱は、ツイッターで大統領選での敗北を決して認めようとせず、支持層を煽り続けた末のことだった。結局、トランプ氏のアカウントは、ツイッターや、フェイスブック、ユーチューブで続々停止となった。SNSでは、大統領退任を待たず「罷免」された。
トランプ氏が最後のよりどころにしたのが“保守系ツイッター”として近年注目されるパーラーだった。しかし、パーラーにサーバーを提供していたアマゾンが、騒乱拡大を防ごうとサービスを遮断した。パーラーは使用不能に追い込まれ、トランプ一派のネット上の手足はもぎ取られた。
いわば、「トランプ一派」と「IT大手」の全面戦争だが、突然のことではなく予兆はあった。
パーラーが誕生した背景には、保守派のSNSでの発信内容が削除されたり、アカウントが停止されたりするなどの問題が頻発していたことがある。共和党では、すでに昨年の議会でのプラットフォーム(PF)規制審議で、「SNS上の言論の自由」に関する問題を取り上げていた。
日本も他人事ではない。アゴラ編集長時代、有名な執筆者が大手SNSで何年も前に韓国の話を論評した投稿について、特に差別的な内容でなかったにもかかわらず、運営側からクレームが入り、アカウントの一時停止処分をくらったことがある。
ネットニュースの世界にも暗雲が漂う。
新聞、テレビ、出版など国内既存メディアの大半から記事や動画を配信しているPFは、以前からリベラルな論調を好む傾向が指摘されている。実際、アゴラで野党議員の「二重国籍」疑惑を追及したとき、そのPFのニュース編集部が、同議員の言い分を一方的に流す独自記事を出してきたことは以前書いた。保守政治家が攻撃されたとき、同じように弁明の場をつくり出すのだろうか。
政治問題は、利害や意見が錯綜(さくそう)して紛糾しやすい。影響力のあるテレビは、放送法で政治的公平性を求められることで、一定の偏向抑止にはなっている。しかし、今や世論形成力においてテレビ、新聞に匹敵するだけの力を持ち始めたPFに対して、政治報道に関する法規制はない。新聞協会に相当するネットニュースの業界団体にも、このPFは未加盟のため、業界的な自主規制にもかかっていない。
ここにきて、大手PF同士の経営統合の動きもある。ニュース市場における寡占の弊害はほとんど指摘されていないが、米国でネット上の言論の自由が問われたなかで、日本でも影響は出てくるのだろうか。
■新田哲史(にった・てつじ) 報道アナリスト、メディア起業家。1975年生まれ。読売新聞記者、PR会社、言論サイト「アゴラ」編集長などを経て現職。ネット世論やネットの政局動向に詳しい。著書・共著に『蓮舫vs小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)、『朝日新聞がなくなる日』(同)など。