東日本大震災から10年となる3月11日を控えて、私が担当するニッポン放送の朝のニュース番組「OK!Cozy up!」(月-金、午前6時~)は1週間、被害が大きかった東北の太平洋岸各地から生放送しています。前日に移動・取材をし、翌朝生放送、その後、移動・取材を繰り返して、福島県の浜通りから岩手県の宮古市までを予定しています。
初日の8日は、福島県浜通りからの放送でした。ご存じのとおり、地震・津波に加えて、東京電力福島第一原発の事故によって長期にわたる避難を強いられた地域です。
発災当初のイメージが非常に強かっただけに、被災地以外では「いまだに、ほとんど人がいないのではないか?」「除染土が入った『フレコンバッグ』と呼ばれる黒い袋が、そこら中に積んであるのではないか?」と思っている方もいるかもしれません。
先週には、わざわざフレコンバッグが積んであるところを空撮して、カラー写真を1面に載せた新聞もありました。むしろ、空撮で探さなければ見当たらないほど、以前と比べると一歩ずつ着実に復興しているなぁ-というのが私の実感です。
この認識のギャップは、NHK放送文化研究所が行った「東日本大震災から10年 復興に関する意識調査」にも表れています。「思い描いていた復興が、どの程度実現できているか」という設問に対し、「かなり実現できている」「ある程度実現できている」というポジティブな回答が、全国に比べて被災3県の方がいい数字でした。
私は震災6年目の2017年、福島県楢葉町を取材しました。ここは地震翌日、福島第一原発事故により全町民に避難指示が出され、15年に全町避難の自治体では初めて全域で避難指示が解除され、町に戻れるようになったというところです。
当時、語り部をされていた高原カネ子さんにインタビューしたのですが、その時に受けた衝撃は拙著『反権力は正義ですか ラジオニュースの現場から』(新潮新書)に書きました。
当時も今も取り沙汰される「震災の記憶の風化」について尋ねたところ、高原さんは「私たちはいつまで被災者でいればいいんですか?」と言葉を選びながら、逆に尋ねられたのです。返す言葉を持ち合わせていなかった私は絶句するしかありませんでした。
東京のステレオタイプな感覚が、いかに現実離れしているかを思い知らされました。今回再びインタビューしましたが、「忘れてはいけないことと、忘れなくてはいけないことがある」と語ってくれました。
防災についての教訓はもちろん忘れてはいけないが、誰かのせいにして恨み言ばかりを言っていても生きていけない。現実に折り合いをつけていく知恵を教えられた気がしました。
ひょっとすると、その気持ちが先に挙げた意識調査のギャップにも表れているのかもしれません。
■飯田浩司(いいだ・こうじ) 1981年、神奈川県生まれ。2004年、横浜国立大学卒業後、ニッポン放送にアナウンサーとして入社。ニュース番組のパーソナリティーとして、政治・経済から国際問題まで取材する。現在、「飯田浩司のOK!COZY UP!」(月~金曜朝6-8時)を担当。趣味は野球観戦(阪神ファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書など。