丸川珠代は福島瑞穂議員の質疑の後、なぜ勝ち誇ったような笑みを浮かべたのか?<なんでこんなにアホなのかReturns>

◆国会中継で見かけるハイクオリティな質疑

国会中継をみていると、時折、「書籍化希望!」「実写化希望!」と叫びたくなるほど素晴らしい質疑に出くわすことがある。国会中継はそもそも実写なんだからそれに対して「実写化希望!」と叫ぶとか我ながら意味わからんが、とにかくそれほど素晴らしい質疑は、退屈に見えるあの国会の審議の中にも、あるにはあるのだ。

党派は関係ない。与野党の区別もない。仕事として義務のように国会中継を見るようになって五年。この五年で、自民党、立憲民主党、共産党、公明党、国民民主党それぞれの国会議員が、思わず唸ってしまうほどのハイクオリティな質問をしている姿を目撃してきた。はい。お察しの通り、維新は例外です。維新所属の議員がまともな質問をしている姿を目撃したことは一度たりともありません。揃いも揃ってソフトモヒカンでピチピチのストライプのスーツを着て鯖みたいなネクタイぶら下げて腕組んでラーメン屋の大将みたいな写真撮ってオラついてるだけ。そもそもあの人たちはなんのために国会にいるんかね。

◆「本になる」とさえ思った福島瑞穂議員による質疑

残念なのは、それほどまでにハイクオリティーな質問が、年に数度見かけられるかどうかのレベルのレアケースだということだろう。去年の場合は3つ、一昨年は2つほどしかない。

幸い、今国会では予算審議が参院に移った早々、極めてレベルの高い質問と出会うことができた。3月3日の社民党・福島瑞穂参議院議員による予算委員会質問がそれだ。

福島議員の質問は午前と午後に分かれている。午前に行われた原子力規制庁に関する質問は、福島議員ならでは、六年の任期を解散なく全うできる参議院議員ならではのもので、そのロジックの堅牢さ、エビデンスの確かさは、口述筆記そのものが一冊の本になるほどのクオリティのものだった。そもそも「蓄積」の量が違う。徹底した調査によって炙り出された過去の事例、これまで自分自身が引き出してきた政府答弁の変遷、原子力規制庁をはじめとする政府担当部局の議事録などなど、福島議員は、ファクトにつぐファクトを積み上げ質問を構成し、政府から答弁を引き出していく。その議論の堅牢さには些かの隙もない。答弁に立った政府側参考人が熱心に福島議員の質問に聞き入り時には大きく頷いてその議論に同意を示していたほどだ。わずか40分ほどの間に福島議員は、見事なまでに日本の原子力行政の歪みを抉り出して見せた。

昼休みを挟んで午後の部も、福島議員の舌鋒が鈍ることはない。原子力行政の歪さを抉り出したあの隙のない堅実な議論の手法で、選択的夫婦別姓についての質問に入っていく。そしてこの問題でも福島議員は、選択的夫婦別姓制度に対する政府側の歪みを見事に炙り出した。丸川珠代オリンピック担当大臣の答弁拒否と歪んだ笑顔という形で……。

◆なぜ丸川珠代は歪んだ笑みを浮かべたのか

選択的夫婦別姓を希求する人々(私もその一人だが)からすれば、あの丸川大臣の答弁拒否や笑顔は許し難いものに違いあるまい。ああした形で政府側の選択的夫婦別姓制度に対する煮え切らなさを炙り出して見せたのは、福島議員の戦術勝ちだと言えよう。

しかし、一方で「法改正し、選択的夫婦別姓を制度化する」という議論の戦略面では、丸川大臣が圧倒的な勝利を収めてしまっていることを忘れてはいけない。

あの答弁拒否とあの不敵な笑いが報じられたあと、メディアは「選択的夫婦別姓に反対しながら、自らは旧姓で活動する丸川大臣の矛盾」とやらを書き立てた。世論もその矛盾を指摘することに夢中となった。丸川大臣はおかしい。自分が夫婦別姓に反対しておきながら、なぜ、旧姓を使い続けるのか、おかしいではないか、丸川さんは矛盾してるではないか! 実にけしからん!……。

◆丸川珠代の狡猾な戦略

そこである。丸川大臣は、選択的夫婦別姓制度を求める人たちが、その隘路に落ち込むことを待ち構えていたのだ。

彼女は、選択的夫婦別姓のための法改正に反対している。丸川珠代が所属する例の自民党の議員グループ(衛藤晟一がちょろちょろしてることからもわかるように、あれも日本会議案件ですけどね)が、地方議会に送った手紙とやらも、「法改正を進めるような請願に反対してくれろ」という内容。その上で丸川珠代は旧姓を通称として利用している。よく考えればわかるように、この丸川珠代のロジックには何の矛盾もない。むしろ、彼女は通称の利用を貫き通すことで「法改正による選択的夫婦別姓の制度化など必要ない!」と見事なデモンストレーションをやってのけているのだ。

こうした論理的立場に立つ丸川珠代に、「お前が旧姓を利用していることは矛盾している!」と迫る方が間違っているのだ。ダブスタの指摘をしているつもりで自分自身がダブスタになってしまっている。彼女に「矛盾しているではないか!」と迫ることは、とりもなおさず、通称の利用さえ否定する議論ではないか。それでは、選択的夫婦別姓導入どころか、選択的夫婦別姓反対論より、極めて後退した地点に押し戻されてしまっている。

丸川大臣のあの不敵な笑みは、「まんまと我が術中にはまりおったな」という中ボスの暗黒微笑であり、丸川珠代は中ボスらしく我が身を挺して、日本会議をはじめとする支持母体や自民党の中にいるラスボス達に自分の献身ぶりをアピールしたのだ。

◆「自称リベラル」勢が陥った陥穽

世論は丸川珠代の戦略に気付いていない。とりわけ、ネットで一言居士よろしくくだらない議論をこねくり回している自称リベラルの方々は、丸川の狡猾な戦略の餌食になりおおせている。

せめてもの救いは、丸川大臣に質問をぶつけた福島瑞穂議員自身が、丸川戦略の狡猾さに気付いている節があることだ。あの質問の最中、福島議員の舌鋒は鋭さを増していくが、今動画を見返してみても、丸川大臣を前に福島議員は一瞬、暗い顔を見せているのが見てとれる。目にありありと猜疑の色が浮かんでいる。あの瞬間、福島議員は、丸川大臣の奸計に気付いたに違いない。

ネットに巣食う自称リベラル各位が軽佻浮薄で附和雷同な「リベラルっぽいこという合戦」にうつつをぬかしている間にも、福島瑞穂のような本寸法のリベラル、今でも社民主義の看板を頑として降ろそうとしない骨太のリベラルが、国会で見事な論陣を張り戦っている。そしてその内容は、そのまま一冊の本にしても十分通用するほどのクオリティの高さだ。

そうした本寸法のリベラルの戦いに望みを託していくほか、丸川珠代のような狡猾な連中に打ち勝つ方策は、あるまい。

<文/菅野完>

【菅野完】

すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(sugano.shop)も注目されている