原則無観客「撤廃」求める声 現場「十分に対策」 文化の存続訴え

新型コロナウイルスの感染拡大対策として、東京、大阪など4都府県で発令された緊急事態宣言の延長に関し、音楽や演劇などの業界団体は、政府や東京都などが要請している「イベント開催は原則無観客」について撤廃を求め、相次いで声を上げた。【伊藤遥、広瀬登、勝田友巳/学芸部】
「感染対策の努力を踏みにじる」
今回の宣言で、政府は発令地域で酒類を提供する飲食店や大型商業施設などに休業を要請したほか、スポーツや文化のイベントは原則、無観客での開催を求めている。
音楽業界では、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、コンサートプロモーターズ協会、日本音楽出版社協会の4団体が5日、「緊急事態宣言の延長に際しての声明文」と題する共同声明を各ウェブサイトなどで発表した。
声明文では無観客開催について「この要請が事前予告なく、お客さまにご案内する期間の猶予も与えられずに行われ、政府・自治体の連携がはかばかしくないことなどもあり、お客さまに多大なご迷惑とご負担をおかけしたこと、まずはおわび申し上げます」と陳謝。その上で「私どもは政府に対して『無観客開催』要請の撤廃を強く申し入れております」と強調。過去1年間、コンサートや演劇、ミュージカルなどの公演会場でクラスターの発生が報告されていないことを挙げた。これは、会場での検温や消毒の実施、歓声や声援の禁止など、徹底した感染症対策を行った結果であり、「ライブやコンサートの公演会場は決して感染リスクの高い場所ではないことを実績によって示してきた」と記した。
また、2020年の業界市場規模が前年比8割減になっているとも指摘し、「業界は大きな打撃を受けている。アーティストや実演家だけでなく、文化施設や公演に従事する方々の生活も危機に直面している」と言及した。
共同声明を出した「日本音楽制作者連盟」の担当者によると、4団体の代表らが6日、西村康稔経済再生担当相と面会し、無観客を撤廃するよう要請した。担当者は「公演のなかには1年以上かけて準備してきたものがあり、それが無観客になるのは主催者や演者にとって耐えがたい。このままでは経済的に行き詰まる事業者が出てもおかしくない。今回の政府の要請は、これまで感染防止に協力してきてくれたお客さんの努力まで踏みにじるようなもの。お客さんから楽しみを奪い、チケットの払い戻しなどで迷惑と手間ひまをかけてしまった。エンタメ業界と距離を置かれてしまうのではないか」と危機感を募らせた。
演芸場の無観客「現実的ではない」
一方、全国の映画館や演芸場が加盟する「全国興行生活衛生同業組合連合会」は6日、「緊急事態宣言の延長に伴う映画館・演芸場への休業要請に対して」と題する見解を公表。映画館への休業要請について、「映画鑑賞を希望するお客様は近県へ移動する可能性があるため、人流抑制の政策に合致しない」などと指摘。また、無観客が求められている演芸場についても「現実的ではない」と訴えた。「他業種に比しても非常に厳しい要請をされている現状の是正も訴えていきたい」と締めくくった。
演劇界も「クラスターは起きていない」
全国の主要な劇場や劇団などが参加する「緊急事態舞台芸術ネットワーク」も6日、公式サイトで声明を公表。「公演に従事するものたちの生活は、時々刻々と、危機的状況に追い込まれている。現場の努力の実態とエビデンスに基づいた対策方針を政府に強く求める」などと訴えた。
無観客での開催要請について、同ネットワークは「ライブイベントは本来、お客様と実際に空間を共有することで、初めて成立する」とし、「実質的には『舞台興行の中止要請』であった」との見解を表明した。
そして、最初の緊急事態宣言が解除された昨年5月以降、「少なくとも当ネットワークの参加団体が催行する公演では、劇場内客席でのクラスター感染は起きていない」と感染対策の効果を強調。入場時の検温やマスク着用の徹底、余裕を持った入場と規制退場をはじめとする感染拡大予防に全力で取り組み、「感染者報告ゼロのエビデンスを積み重ね、劇場は、決して感染リスクの高い場所ではないことを実績によって示してきた」と述べた。
官邸前で静かに抗議
舞台芸術やミニシアターなどの関係者が作る「WeNeedCulture」は6日夕、首相官邸前で「サイレントスタンディング」を実施した。「#文化芸術は生きるために必要だ」などと書かれたカードを掲げ、約50人が1時間にわたり、静かに支持を訴えた。
同団体は「多くの団体・個人が事業継続が困難になるほどの危機的状況に陥っており、少額の協力金は意味をなさないことは明白。物心共に限界」とし、持続化給付金の再支給▽使途を問わない特別給付金の支給▽科学的根拠のない休業、時短営業要請などの回避▽政府・自治体からの要請に応じた場合、事業規模に即した協力金の支給――を求めている。
芸術分野への支援を求めるサイレントスタンディングは、4月21日にミニシアターへの支援を求めて行って以来2度目。「他分野でもダメージは深刻」と規模を広げての実施となった。
映画配給会社太秦の小林三四郎さんは「映画館が一つなくなれば、その周辺にまで影響が及ぶ。終わりが見えない中で支援もない。今こそ政治の力が必要だ」と話した。また都内でライブハウスを運営するロフトプロジェクトの加藤梅造さんは「毎日のように、ライブハウスやクラブの閉店を聞く。世界に向けて音楽文化を発信してきた代表的なライブハウスも存続できなくなっている。規模に合わせた支援が必要だ」と訴えた。