慶応大の岡野栄之教授(生理学)らの研究チームは20日、全身の筋力が徐々に低下する筋萎縮性側索硬化症(ALS)に、パーキンソン病治療薬が有効であることが確認できたと公表した。患者由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)を活用した臨床試験(治験)で、病気の進行を遅らせることができたという。有効な治療法が乏しいALSの新たな治療の選択肢になる可能性があるといい、今後、治療薬として早期の承認申請を目指す。
難病患者が提供した細胞で作ったiPS細胞を使えば病態を試験管内で再現することが可能で、さまざまな薬の候補の効き目を確認できる。このためiPS細胞は、再生医療だけでなく新薬開発での活用も期待されている。チームは、iPS細胞を活用した創薬の治験で、治療薬の有効性を確認できたのは世界初としている。
ALSは脳からの指令を全身の筋肉に伝える運動神経の細胞が徐々に失われる難病で、進行すると呼吸も難しくなる。国内の患者は約1万人とされ、根本的な治療法はない。
治験で効果を確認したパーキンソン病治療薬は、錠剤のロピニロール塩酸塩徐放剤(商品名はレキップCR錠)。チームはこれまで、iPS細胞で病気の原因を解明し、新薬を開発する研究を続けてきた。患者由来のiPS細胞から運動神経細胞を作製し、ALSの病態を再現。1232種の既存薬を加えた結果、ロピニロール塩酸塩に細胞死を抑える効果があると突き止めた。細胞実験では既存のALS治療薬と比べ、病状を改善する効果が2~3倍あることも確かめたといい、ALS患者の約7割に有効と考えられるとしている。
治験は、自立歩行ができるなど病気の進行が進んでいない発症後5年以内の患者20人を対象に実施。そのうち、13人は1年間にわたりロピニロール▽7人は最初の6カ月のみ偽薬(プラセボ)、残りの6カ月はロピニロール――を内服し、それぞれを比較して薬の安全性や有効性を調べた。
その結果、ロピニロールを1年間にわたり内服した13人は、半年しか内服しなかった7人に比べ、内服開始から半年の時点で活動量や複数の筋力の低下が抑制されたほか、全期間では運動機能の低下が抑制され、病気の進行を約7カ月間遅らせることができた。早期の内服が重要で、より長く飲んでいると効果があると考えられ、薬の安全性も確認できたという。
岡野教授は「ALSの治療に手応えを持つことができた。一日も早くALSが致死性の疾患でなくなるように努力をしていきたい」と話す。今後はロピニロールが効かない患者や、病状がより進行している患者に有効な治療法の開発も目指すという。【岩崎歩】