米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。 独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。 ■「泥縄」にならざるをえない背景 「泥縄だったけど、結果オーライだった」。筆者もかかわった新型コロナ対応民間臨時調査会(コロナ民間臨調)の結論では官邸スタッフの言葉として、この言葉を引用した。その意図は、結果オーライだったから万事問題なしとするのではなく、「場当たり的な判断には再現性が保証されず、常に危うさが伴う」という点に警鐘を鳴らすことであった。 にもかかわらず、ワクチンをめぐるガバナンスにおいても「泥縄式」危機管理を繰り返し、場当たり的な対応に終始した。もちろん、ワクチン開発などは一夜にしてできるものではなく、「泥縄式」で対応できるものではない。しかし、ワクチンの承認、調達、接種などで場当たり的な対応が繰り返された。われわれはまた過去の危機に学ぶことを怠ったのであろうか。 「泥縄」とは泥棒を見てから縛るための縄をなうことを意味するが、そうならないためには最初から縄をなっておけば良い。しかし、日本にはパンデミックが起きたときのために用意しておいた縄(ワクチン生産能力)はなかった。 日本は創薬国であるにもかかわらずワクチンが作れなかった理由は主に3つある。 第1に、ワクチン生産は製薬会社にとってはリスクが大きく、仮に開発しても感染が収まれば売り上げにつながらないため、ビジネスとして注力しにくいことが挙げられる。その結果、ワクチン開発のための人材も十分に育たず、開発環境や設備も不十分であった。一言でいえば日本は「ワクチン発展途上国」であった。 第2に、子宮頸がん(HPV)ワクチンをめぐる訴訟など、ワクチンの副反応の訴訟リスクがあるだけでなく、薬害エイズ問題などによって行政の側も薬事承認のプロセスが厳格になり、危機時に柔軟に対応することが難しいという背景もあった。 第3に、皮肉なことだが新型コロナの感染拡大が「結果オーライ」であったため、治験を行うのに必要な患者を集めることが難しく、開発が遅れるなかで外国で有効なワクチンが開発されたため、さらに治験が難しくなった、という背景がある。 ■ワクチン承認をめぐる「泥縄」
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。
■「泥縄」にならざるをえない背景
「泥縄だったけど、結果オーライだった」。筆者もかかわった新型コロナ対応民間臨時調査会(コロナ民間臨調)の結論では官邸スタッフの言葉として、この言葉を引用した。その意図は、結果オーライだったから万事問題なしとするのではなく、「場当たり的な判断には再現性が保証されず、常に危うさが伴う」という点に警鐘を鳴らすことであった。
にもかかわらず、ワクチンをめぐるガバナンスにおいても「泥縄式」危機管理を繰り返し、場当たり的な対応に終始した。もちろん、ワクチン開発などは一夜にしてできるものではなく、「泥縄式」で対応できるものではない。しかし、ワクチンの承認、調達、接種などで場当たり的な対応が繰り返された。われわれはまた過去の危機に学ぶことを怠ったのであろうか。
「泥縄」とは泥棒を見てから縛るための縄をなうことを意味するが、そうならないためには最初から縄をなっておけば良い。しかし、日本にはパンデミックが起きたときのために用意しておいた縄(ワクチン生産能力)はなかった。
日本は創薬国であるにもかかわらずワクチンが作れなかった理由は主に3つある。
第1に、ワクチン生産は製薬会社にとってはリスクが大きく、仮に開発しても感染が収まれば売り上げにつながらないため、ビジネスとして注力しにくいことが挙げられる。その結果、ワクチン開発のための人材も十分に育たず、開発環境や設備も不十分であった。一言でいえば日本は「ワクチン発展途上国」であった。
第2に、子宮頸がん(HPV)ワクチンをめぐる訴訟など、ワクチンの副反応の訴訟リスクがあるだけでなく、薬害エイズ問題などによって行政の側も薬事承認のプロセスが厳格になり、危機時に柔軟に対応することが難しいという背景もあった。
第3に、皮肉なことだが新型コロナの感染拡大が「結果オーライ」であったため、治験を行うのに必要な患者を集めることが難しく、開発が遅れるなかで外国で有効なワクチンが開発されたため、さらに治験が難しくなった、という背景がある。
■ワクチン承認をめぐる「泥縄」