新型コロナウイルスの影響で、離職や異動、他病院への転職をした看護師は少なくないだろう。離職率だけを見ると、2020年の正規雇用看護職員の離職率は11.5%(前年度10.7%)と増加傾向にある。そしてその要因のひとつには、コロナ禍で受けた苦労などが挙げられているという。
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彼らはコロナ禍でどんな苦悩の日々を送ってきたのか。今回は、コロナ専用の病棟で働いていた看護師と、いまも働き続ける看護師の2人に話を聞いた。
◆配属先がいきなりコロナ患者専用の病棟に
「患者の病室に入るときは、防護服を着て手袋、N95マスク、キャップ、アイガードをつけるんですが、その作業を毎日20~30回繰り返さないといけなかったんです。もちろん自分が感染しないためには大事なことだとわかっていたけど、すぐには慣れませんでした。休憩の時間も感染リスクが高くなるからという理由で、休憩室に2人以上滞在するのはNGでした。会話も原則禁止です。仕事の相談すらまともにできなかった。一気に閉鎖的な空間になったなと感じました」
神奈川県内の病院で働く男性看護師Uさん。彼が配属された病棟は、ある日突然、コロナ患者の受け入れ先になったという。もともと、さまざまな疾患を持った患者が入院しており、夜間の緊急入院も、彼らがほぼ受け入れていたため、ある程度のことは柔軟に対応可能な病棟ではあった。
神奈川県内病院勤務の20代・男性看護師Uさん
ただ、まさか自分たちがコロナに感染した患者を受け入れるとは思っていなかったという。
◆ノイローゼになるスタッフもいた
当時は心を削られたという
「初めて看護師長から話を聞いたときは、とにかく怖い気持ちでいっぱいでした。最初にコロナの患者さんがうちにきたときは、いまでも覚えています。『そのうち自分も感染するんだろうな……』という思いが頭を駆け巡りましたから」
看護師たちに精神的な疲れが見え始めたのは、コロナ専用病棟として稼働し始めて2~3か月経ったころ。いままでとはまったく異なる労働環境に「ノイローゼになるスタッフもいた」とUさんは語る。
コロナ患者専用の病棟になり、変わっていったのは労働環境だけではなかった。長期入院に加えて隔離を強いられる患者の様子も変わっていったという。当時の様子をこう語った。
◆変わっていく患者、減っていくスタッフ
「コロナ患者として入院してきた人は、退院するまで1歩も外に出られない決まりでした。患者さんにとってはかなりストレスですよね。そのせいで、入院初日はすごく穏やかでも、2週間経つころには看護師に『ふざけるな!』『いつまでここにいなきゃいけないんだ! 早く治せ!』といった罵声を浴びせるくらい豹変した患者さんもいました。でも、彼らにもストレスのはけ口がなかった。僕らが自然とその対象になるのは仕方なかったのかもしれません」
頭ではわかっていても心が追い付かなかった。でもみんな同じ気持ちだから自分だけ弱音は吐けない。ストレス発散も難しかった。友達と会ってしまえば感染を広めかねないからだ。Uさんは、そんなモヤモヤを抱えながら日々を過ごしてきたという。
そして2020年12月、Uさんが恐れていたことが起こる。同僚がコロナにウイルスに感染してしまったのだ。その日を境に、感染が判明し、休むスタッフの数はどんどん増えていき、「他病棟から助っ人の看護師を招集しなければ業務が回らない状態にまでなった」とUさんは語る。
◆心は折れ、コロナと無関係の病棟へ異動
すでに心はボロボロだったという、Uさん
「助っ人に来てくれるのはすごくありがたかったです。でもそれ以上に、不安が大きかったですね。一定のタイミングで助っ人のメンバーが変わっていたので、その人たちにコロナウイルスが感染して、他の病棟に広がってしまわないかと。自分たちのせいでパンデミックにならないように祈るばかりでした……」
この時すでに心はボロボロだったという。現在、Uさんは数か月間の休職を経て、コロナとはあまり関わりのない病棟へ異動した。休職すると決めたころの心境を、こう語る。
「『いつまでこんな状態が続くんだろう?』と思っていました。夏に一度、感染者数が少なくなって収束するかなと思ったら、秋には第2波。重症化する人も増えてますます負担が大きくなりました。回らない業務、終わらないコロナとの闘い、自分の無力さ。仕事が終わって家に帰っても医療者としての行動が求められる日々。心が折れてしまったのはそんな思いでいっぱいになったからです。もう精神的に持たないなと思って休職を選択しました」
◆コロナ患者の対応が曖昧なままスタート
都内の総合病院で働く女性看護師Mさんは、2020年3月に現在の病棟へ異動した。コロナ患者受け入れ専用の病棟へ変わると告げられたのは、その2週間後。ただ彼女の病棟では、感染対策が他の病院よりも甘かったそうだ。
「どこの病院でも、コロナ対策には手袋、N95マスク、防護服、アイガードを必須にしているはずなんですけど、私の病棟では『サージカルマスクとビニルエプロンで対応しましょう』と言われたんです。N95マスクの装着が必須になったのは、変異型のコロナウイルスに感染した患者が入院してからでしたね。正直言って、なんで他の病院と対応が違うのかわかりませんでした」
そんなMさんをさらに困惑させたのが、都から支給された感染対策用の資材だったという。マスクや防護服、手袋などが支給されたが、すぐに薄さや性能の劣化に気付いたと語る。ただ上司からは「いまある資材よりも先に都から支給されたものを消費してほしい」と言われたそうだ。
◆防護服はビニル製ではなく紙製
都内病院勤務の20代・女性看護師Mさん
「MADE IN CHINAって書いてありましたね。とにかく手袋は薄くてやぶけましたし、防護服はビニル製ではなく紙製でした。マスクくらいはN95が送られてきているだろうと思ったら、N95マスクよりも性能は劣るけどサージカルマスクよりはマシみたいなものが送られてきていて。全国の病院で資材が足りなかったので、贅沢は言えないなと思ってはいましたが、本当にこれでコロナ病棟として機能していけるのかすごく不安でした」
本当にこんな緩さで、患者も自分も感染から身を守れるのか。そんなストレスを抱えながら働くMさんに追い打ちをかける出来事がこの後起こったという。
◆「本当に平気なんですか?」の一言にショック
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コロナ禍になり、医療者が差別を受けるケースが増えた。SNSやメディアでも多く取り上げられている。ただその多くは一般人からの差別だ。Mさんが受けたのは同じ病院で働く医療者からの差別だったという。
「病棟間での物品の貸し出しはよくあることなんです。その日も、物品の貸し出し依頼があったので『取りに来てください』と言いました。そしたら『え、そちらに行かなきゃいけないんですか?』と聞かれたんです」
Mさん曰く「物品を取りに行くのは感染するリスクが高いから難しい、そちらから届けにきてほしい」と言われたとのこと。それが初めて同じ医療者から受けた心ない言葉だったという。他にもMさん自身の体験ではないが、差別ともとれる出来事はあったと語る。
「同僚は、出勤時のエレベーターで自分が降りる階を押したら、あからさまにこっちを見て嫌な顔されたと言っていました。私の病棟を担当する看護助手さんも、同業者に『そんな感染リスクが高いところに荷物を置かないで私たちのところに置いたら?』と提案されたそうです。でもいざその提案にのったら、提供された場所が汚物室だったみたいで。コロナ専用の病棟に勤めているだけで、他はすべて同じ医療従事者。よくそんなことができるなって思いましたね」
現在もコロナ専用の病棟で働き続けているMさん。時が経ち、感染予防策は確立されたそうだ。ただ心ない言葉は稀に耳にするという。さまざまな苦痛を受けながらも、看護師を続けている人は多いだろう。彼らに1日でも早く、安心して働ける日がくることを願うばかりだ。
<取材・文/トヤカン>
大学病院の正看護師からフリーライター・イラストレーターの道へ。医療と看護の業界で得た知識と経験をもとに、医療書籍の書評から取材記事、コラムまで幅広く執筆。昨今はLGBT関連の記事執筆・イラスト制作にも携わっている。 Twitter:@toya_kan_dazo