新型コロナウイルス感染拡大が続く東京都で、保健所の行動確認の電話に出ないケースが増加し、濃厚接触者や感染経路の特定が難航している。急増した自宅療養の患者のケアや見つからない入院先の調整にも人手が割かれる保健所。医療体制が「機能不全」、感染が「制御不能」と指摘された感染第5波まっただ中の都内の保健所を取材すると、負担が限界を迎えつつある現状が浮かんだ。
感染者連絡取れず
都内で過去最多の新規感染者が公表された今月13日。みなと保健所(港区)では午前8時半の始業とともに電話が鳴り始めた。
「症状はありますか?」
電話を取った職員は区民の不安の声に応じていく。「毎日毎日対応しても一向に感染者は減らない。終わりのない戦いに職員の限界が来ている」。松本加代所長は嘆く。
みなと保健所には現在、1日約120~130件の新型コロナ感染者発生届が医療機関から届く。職員は届け出をもとに、患者に電話をかけて入院調整や感染経路の把握などを行う。ただ、発生届は電話番号が間違っていたり、発症日が分からなかったりと不備も多い。「当該者住所 新橋のホテル(ホテル不明)」と書かれたものもあり、居場所が分からないこともしばしばだ。
感染者に若者の比率が増えたことで、電話に出ないケースも多くなった。つながらないときはショートメッセージで「警察とともに安否確認をします」などと送信すると返信がくることもあるという。
「8/12不在ルス」
「8/12 11:54 生存確認メール」
患者の情報がまとめられたファイルには聞き取り調査の困難さがにじむ。
「命の選別」現実味
始業から約30分後、所長の元に職員が相談に来た。「『ホテルは何もできないから自宅療養にしてくれ』という患者を説得していたら電話を切られました」
自宅療養者が増える中、症状悪化の懸念がある患者に療養先のホテルを調整するのも保健所の仕事だ。だが、港区では、狭く過ごしにくいホテルに忌避感を持ち、自宅療養を切望する患者も多く、悩みの種の一つとなっている。
「症状の重さは分かりますが、入院先が見つかり次第になります…」。始業から1時間たち、患者への聞き取り調査が本格化すると、こんな声も聞こえてきた。入院調整は既に限界を迎えており、連日40度の熱や息苦しさを訴える患者の入院先も見つからない。
患者に入院先がないことを伝え、受話器を置いた職員は「命の選別」の始まりを感じている。「病床が限られる医療機関が、治療効果の高い人(助かりやすい若い世代)を優先して受け入れることもある」
現状、呼吸器が必要な患者でも入院させることができず、通常の医療機関が開いていない深夜は、駆けつけた救急隊員がそのまま呼吸器を当て続けて対応しているという。
深夜も対応追われ
午後5時15分の終業後も業務は続く。職員たちは早ければ午後8時ごろに帰れることもあるが、幹部職員は深夜も緊急の電話対応に追われる。1件あたり約30分の電話が毎晩3、4件。医療機関に空きがなく入院が難しい旨を伝えると、「死ねというのか!」「じゃあ自殺してやる!」と怒鳴られることもある。
このまま感染者が増え続ければ保健所の繁忙度はさらに高まる。松本所長は「職員は1年半以上この生活を続け、今がまさに限界。感染経路の特定や隔離もままならない中、現行のやり方も限界を迎えている」と危機感をあらわにした。(永井大輔)