千葉県柏市で30代の妊婦が新型コロナウイルスに感染し、自宅で早産した赤ちゃんが死亡した事故が起き、医療が十分に機能していない中で不安を募らせている妊婦は多い。収まる気配のないコロナ禍で妊婦はいまどのようにすればいいのか――。マザリーズ助産院(東京都調布市)の代表助産師で、東京都助産師会理事の棚木めぐみさん(54)は「ネット情報に振り回されずに、夫や同居の家族に感染への意識をもっと高めてもらってほしい」と話す。【賀川智子/首都圏取材班】
妊婦を見守る体制はできていたか
柏市の事故は「恐れていたことが起きた」と棚木さんは言う。一方で、行政の不備も感じたという。
「自宅で自粛生活をしていた妊婦さんを責任をもって見守る助産師や(公的機関の)部署がなかったのか、あっても機能していなかったのだろうか」
棚木さんによると、東京都助産師会には都から委託を受けた妊産婦向けの「寄り添い型支援」(23区、八王子市、町田市を除く)があるという。
助産師は日常的に分娩(ぶんべん)介助を担う国家資格だ。棚木さん自身も、助産院にかかる妊婦約15人、産後を含めると計50人ほどの妊産婦と無料通信アプリ「LINE」でつながっている。書き込みを通じて、心配事や悩み、体調の変化など日々、細かく知らせてもらい、アドバイスをしている。
以前、コロナ感染の疑いがある妊婦がいた際、自分の助産院では産めなかったが、結局コロナではなかったと判明し、嘱託病院で無事出産した後、早期に助産院に戻って入院したという。
棚木さんは「何かあった時に救急任せではなく、病院同士の連携が取れて、迅速に対応できるというのが通常の医療のあり方だと思います。ただ、現状としては、コロナ患者にも対応したNICU(新生児集中治療室)がある病院が満床だったり、近隣になかったりするかもしれません」と話す。
自宅出産で助産師の駆けつけも想定
特に首都圏のコロナ感染症の広がりは「災害」と称されるほど深刻だ。棚木さんは「あくまで個人の意見」とした上で、もし、自分の患者が急に産気づき、来院することも救急車も間に合わないようであれば、コロナの陽性陰性にかかわらず、LINEで連絡をもらう。そして、電話をつなげたままにし、「妊婦を一人にはさせない」と言う。
「その場を動かないで」
「バスタオルをたくさん用意して」
「こんなポーズでいて……」
など、細かく妊婦に指示を出し、最善を尽くすだろう、と考えている。
「そして、可能であればガウンやフェースシールドなどフル装備をした上で、酸素ボンベや点滴、赤ちゃんの蘇生道具一式など通常の自宅分娩道具を持って複数の助産師で駆けつける。少なくとも、救急車が来るまでの間、ママさん一人で産むことは避けられたかもしれません」
周囲も予防意識高めて
では、医療体制が逼迫(ひっぱく)する今、妊婦はどう過ごせばいいのか。
棚木さんによると、感染しないよう外出しない妊婦が多いが、家族や友人から感染してしまうケースが多いという。棚木さんが知るコロナ陽性になった妊婦はすべて夫から感染していたという。
「やはり妊婦さんの周囲の方の意識を、もう少し高める必要があるかなと思います」
その上で、妊婦に対しては「今のうちに知り合いの助産師を見つけてSNSでつながっておいて」とアドバイスする。
「SNSで知り合いの助産師さん、つまり『マイ助産師さん』がいると心強い。行政は平日午前9時~午後5時の対応が多いですが、それ以外の時間に何かが起きたら途方に暮れてしまう。事前にSNSでつながり、夜中でもSOS時、必要時にアドバイスをもらえるような方を探しておいてください」
家族と楽しく過ごす方法を
また、日々の生活で不安になる一方ならば、ネットで危機感をあおるようなコロナ情報ばかり集めるのはおすすめしないという。
「スマホで一切ググらない(ネット検索しない)でと周囲の妊婦さんには言っています」。代わりに、家族とともに家の中で楽しく遊んだり過ごしたりできる方法を考え、実践してほしいという。
「おいしくヘルシーなものを作って食べ、良い睡眠をとり、朝の早い時間など、人の少ない時間帯にお散歩する。お風呂タイムもしっかりとった方がいい。東京都助産師会も、家の中でできる安産になる体操や呼吸法などママに役立つ情報をユーチューブ(動画投稿サイト)チャンネルでお伝えしています」
学会は妊婦のワクチン接種を推奨
妊婦のワクチン接種を巡っては今月14日、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会の3団体が「妊娠の時期にかかわらずワクチンの接種を勧める」という共同声明を出した。
妊娠後期に感染すると重症化しやすいうえ、妊婦がワクチン接種を受けても副反応は一般の人と差がないことや、流産や早産などの頻度の差もないという報告事例を、その理由として挙げている。
また、感染した妊婦の約8割が夫やパートナーからの感染だとして、妊婦だけでなく夫やパートナーについてもワクチン接種を受けるよう呼びかけている。