池袋暴走「償いのラストチャンス」 松永さん、被告に呼び掛け

「心が少し救われた」。東京・池袋で乗用車を暴走させ自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われた飯塚幸三被告(90)を禁錮5年の実刑とした2日の東京地裁判決。妻子を奪われた松永拓也さん(35)は高く評価して被告に控訴しないよう求め、「償いのラストチャンス」と呼び掛けた。
午後2時、東京地裁の104号法廷。黒のスーツに黒のネクタイ姿の飯塚被告は、弁護人に車椅子を押されて入廷し、下津健司裁判長に促されて証言台の前に移動した。「禁錮5年に処する」。主文が告げられると、視線を下に落としたまま、身じろぎしなかった。
判決は「車両の故障は一切なかった」などと述べ、被告の無罪主張を次々と退けた。言い渡し後、下津裁判長が「証拠上あなたの過失は明白だと判断しました。裁判所の認定に納得できるのであれば、まずは被害者、遺族に自らの責任を認め、過失を認めた上で真摯(しんし)に謝っていただきたい」と説諭すると、飯塚被告は小さくうなずいた。妻真菜さん(当時31歳)と長女莉子ちゃん(同3歳)を亡くした松永さんは、裁判長の言葉に検察側の席で涙を流した。
「2人の命は戻ってこないが、少しだけ救われた。前を向いて生きていけるきっかけになり得る」。判決後の記者会見で、松永さんは思いを語った。
松永さんにとって、2020年10月の初公判から悲しみと怒りの連続だった。今年4月の被告人質問。「アクセルが床に張り付いて見えた」という被告の説明に絶望した。6月には法廷で被告に直接質問したが、「アクセルとブレーキは踏み間違えていない」とかたくなな姿に、「2人の命に向き合っていない」との思いを強めた。
無罪を主張することは被告の権利と理解していたが、「刑務所に入ってほしい」と強い言葉を使うようになった。刑務所で命や無念と向き合う時間を持つことが、被告の真の償いになると考えたからだ。禁錮5年の判決は、こうした思いに応えるものだった。
刑事訴訟法には、著しく健康を害する場合や70歳以上の被告には、検察官が刑の執行を停止できるとした規定がある。ただ、刑務所では増加する高齢受刑者への配慮が進み、近年は執行停止となるのは年間20人前後だ。90歳の飯塚被告も実刑が確定すれば刑務所に収容される可能性が高い。
松永さんは会見で「被告の控訴する権利は尊重している。だが、争いを続ける限り、亡くなった2人が愛してくれた自分ではなくなってしまう。争いを続けたくない。私には決められないが、(控訴は)してほしくない」と願った。
松永さんは事故後、2人の命を無駄にしたくないと、高齢ドライバーによる事故防止のための活動に励んできた。「ブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故だと認定された。次は教訓として事故が起きないようにしていかないといけない。交通事故を一つでも減らせるなら、いつか天国で胸を張って2人と会える。だから、これだけで終わらせるつもりはない。声を上げ続けていく」と語った。【遠藤浩二、柿崎誠】