ドン・ファンは「いつでも別れてやるから」と吐き捨てた【紀州のドン・ファンと元妻 最期の5カ月の真実】

【紀州のドン・ファンと元妻 最期の5カ月の真実】#44

野崎幸助さんの喜寿77歳の誕生日となった2018年4月13日の昼、私は六本木のホテルに呼ばれた。行くと交際クラブの社長であるAさんと、元従業員で名目上のアプリコ役員のMがいた。

60代後半のMは野崎さんの通夜・葬儀の時には、「オヤジは遺言なんて残すタマじゃないよ」と言い切っていたのだが、2週間後に「社長から遺言が送られてきていた」と“思い出した”男である。「遺産を田辺市にキフする」と書かれた1枚の紙切れが現在も係争されており、田辺市と遺族との間で裁判が行われている。このことは後に詳しく説明するが、Mは社長から金を借りており、コバンザメのように社長の機嫌うかがいをするヤツだった。

「社長、おめでとうね。早貴ちゃんは来ないの?」

「うん。自動車免許を取るために教習所に通っているんですよ」

「仲はうまくいっていますか?」

「はい、はい。まあまあや」

私の質問にも機嫌が良く、4人でカウンターに座って洋食のランチを食べた。

「しかし、それにしても社長は先見の明がありますな。アプリコって社名はアプリから取ったんでしょ」

Mのヨイショには驚いた。アプリ? スマホなどに使われるアプリがアプリコの由来? 田辺は梅の産地であるから、梅=アプリコットから取ったのであって、それ以外の答えはない。「おまえはアホか!」と言いたかったが、バカを相手にするのも疲れるだけなので黙っていた。社長もMの言う意味が分からずに黙っていた。いや、社長はスマホに使われているのがアプリだと呼ばれているのを知らなかっただけのことだ。

Mは先に帰り、私と交際クラブのA社長とドン・ファンの3人でコーヒーを飲んでいた。どうやらドン・ファンはクラブが紹介した女性と会うことに決めたらしい。

「社長、一応妻帯者なんですからね。浮気ということになりますよ。もちろん黙っていますけど」

私が社長を冷やかした。

「まあね。フフフ……」

社長は機嫌が良く、紹介する女性が来るまで、3人で世間話に興じていた。

「で、どうなんですか?新妻は?」

A社長は早貴被告とは面識がないので聞いた。50代の彼は、しゃべりも上手で、田辺のドン・ファン宅にも招待されたことがある仲だ。

「感想はない……。嫌になったら別れるから」

「またまた、その気もないくせに」

私がちゃかした。

「いや、ホンマやで。いつでも別れてやるから」

ドン・ファンが吐き捨てたセリフを聞いて、多分2人はうまくいっていないのだろうと思ったが黙っていた。 (つづく)

(吉田隆/記者、ジャーナリスト)