【紀州のドン・ファンと元妻 最期の5カ月の真実】#49
ゴールデンウイーク前に「札幌に行く」と言って田辺を離れた早貴被告は、連休中の5月4日に田辺に戻ってきた。
「社長が烈火のごとく怒って電話をして、それで慌てて早貴が戻ってきたんや。離婚するとか、お手当を払わないというようなことを言ったんだろうけど、詳しいことは分からん」
アプリコの番頭格・マコやんからの電話を受けて、傍若無人とも見えるような振る舞いを続ける早貴被告の顔が浮かんだ。野崎幸助さんが彼女のわがままに手を焼いていることは分かっていた。ハッキリと言うなら、彼女はドン・ファンをなめ切っていたのだ。
この少し前の4月中旬には、しびれを切らしたドン・ファンが、「離婚をしますか?」と離婚届の用紙を突きつけている。このときは早貴被告が紙をビリビリに破いたので、ドン・ファンは「ちゃんとしてくださいね」と矛を収めたという。
食事の支度をすることもなく、掃除も洗濯もしない。話題が豊富でしゃべりがうまいなどということもなく、常時スマホを離さずゲームに夢中になっている新妻に、ドン・ファンがあきれるのは当然だ。一緒に暮らせば、彼女が自分のことを大事に思っていないことも分かったはずだ。足が少々不自由な夫に手を添えようともせず、ひとりでスタスタと先を歩いていく彼女を見ただけで、自分の選択が間違ったことに気が付いていただろう。
■月々100万円の高価なおもちゃ
それでもドン・ファンは彼女をかばい続けた。が、月々100万円の維持費がかかる「高価なおもちゃ」に対しての疑惑の念は、彼の心に蓄積していったに違いない。
5月7日の早朝4時ごろにドン・ファンから電話があった。早貴被告との離婚の話かなと思ったら、なんとイブちゃんが死んでしまったという知らせだった。
「あのね、イブちゃん死んじゃったんですよ」
「いつ? ホント?」
「昨晩様子がおかしくなったので、車で大阪の病院へ運ぼうとしたんだけど、病院に着いたときには亡くなっていた……」
「そうですか……それは、それは……つらかったでしょうねえ。気を落とさないでくださいよ」
16年も一緒に暮らしていた愛犬の死。子供のいないドン・ファンにとって、イブは娘のような存在だった。どこに行くにも一緒で、東京の病院に行くときにはペットホテルに預けていたが、日に何度も電話を入れてイブの様子を聞いていた。
「私が死んだら遺産は全部イブちゃんに行くようにしますから」
それも口癖だった。そのイブが死んでしまったとは……。(つづく)
(吉田隆/記者、ジャーナリスト)