再整備事業に伴い、来年度から解体が始まる北九州市小倉北区の旦過市場で、市が場内に出没するネズミの駆除作戦を進めている。餌場を失ったネズミが周辺に生息域を広げる懸念があるためだ。これまでも駆除は行ってきたが、根絶には至らなかった。市場関係者は「解体前に一掃を目指す」と話す。(橋本龍二)
「餌が全て食べられている」。八百屋や鮮魚店などが並ぶ場内で8月、一般社団法人「福岡県ペストコントロール協会」(福岡市)副会長の遠山幹男さん(69)が驚いた様子で語った。
場内の約40か所に同月上旬、冷蔵庫の下などにサツマイモの破片100グラムを置いていたところ、3日でなくなった店舗もあった。サツマイモはネズミの好物。市の委託で個体数調査を行っている遠山さんは「全部食べられるとは予想外。集団を形成している可能性もある」と話した。
市
神嶽
(かんたけ)川旦過地区整備室などによると、店主らは10年以上にわたり毎年、専門業者にネズミの駆除を依頼してきた。ネズミは減少し、2005年にいったん駆除契約を終了したが、再び場内の各所で見られるようになった。同協会によると、市場を解体した場合、周辺に逃げ出す恐れもあるという。
このため市は、解体前にネズミの一掃を決めた。市に駆除を委託された同協会は、▽個体数の把握▽捕獲▽場合によっては殺そ剤を使用――の三つを柱にした作戦を立案。今年2月、市場のおよそ半分の面積に集まる店舗で、シンク下や倉庫など約50か所にサツマイモを置き、3日間で減った量を基に個体数を調べた。
その結果、この範囲の生息数は約40匹で、種類はドブネズミと結論づけた。8月には残り半分の面積の店舗で同様の調査を実施。全体の推定個体数を割り出し、今月中にも駆除作業に入る予定だ。
捕獲には粘着シートを使用する。協会がネズミの出没地点を推測してシートを設置し、回収する作業を複数回行うという。
ただ、作戦の成功を不安視する声もある。旦過市場商店街会長の黒瀬善裕さん(58)は「粘着シートだけでは、下水道にいるネズミまでは捕獲できないのではないか」と懸念。市場の近くで洋装店を営む男性(82)は「この辺には飲食店が増えてきた。ネズミの拡散を不安に思う人がいるかもしれないので、市は徹底して駆除に取り組んでほしい」と訴える。
ネズミは電線をかじる習性があり、停電や漏電による火災を引き起こす恐れがあるという。同整備室の船越英明室長は「解体による周辺への影響を最小限に抑え、新しい市場で皆さんに安心して買い物を楽しんでもらえるよう全力を尽くしたい」と意気込んでいる。
市場の取り壊しに伴うネズミの駆除は、東京都の旧築地市場や那覇市の第一牧志公設市場で行われたことがある。旧築地市場では、ネズミが敷地外に逃げ出さないよう周囲にトタン板が設置された。
◆旦過市場=神嶽川沿いに延びる長さ約180メートルのアーケード街を中心に、約100店が営業。大正時代に店が並び始めたとされる。建物の老朽化や大雨による浸水被害を受け、2012年に再整備計画の検討が始まり、21年2月に土地区画整理事業に着手した。新市場は地上4階建てで、27年度の完成を目指している。