「彼女の助けがなければ賞をもらうのは不可能だった」。ノーベル物理学賞の受賞が決まった米プリンストン大上席研究員の真鍋
淑郎
(しゅくろう)さん(90)は取材に対し、60年に及ぶ研究者人生を支えた妻、信子さん(80)への感謝を口にした。地球温暖化予測の礎を築いた真鍋さんの偉業に、国内では祝福の声が広がっている。
【プリンストン(米ニュージャージー州)=船越翔】5日の受賞決定発表後に自宅で行われたインタビューで、真鍋さんは信子さんへの思いをこう述べた。「子供たちの面倒をよく見てくれ、研究に100%集中できた。感謝以外の何物でもない」
真鍋さんの研究は、大気や海洋などに関する数値をコンピューターに入力し、その変化を予測していくもので、何度も実験を繰り返す根気のいる作業だ。
活力になったのが信子さんの手料理だった。「和食や中華、イタリアン……。毎日、妻の料理を堪能している。私は最も恵まれた人間だ」と笑顔を見せた。
車に関するエピソードも披露し、「私は運転がとても下手で、何か考え始めると信号に注意を払わなくなってしまう。でも、妻はとても運転がうまい」と照れ笑いを浮かべた。
信子さんも報道陣の取材に応じ、研究に打ち込む真鍋さんについて、「私は主人をいつもリスペクト(尊敬)しています」と話した。
「家のことを心配せず、24時間365日研究できるよう、仕事を一生懸命やっていただく。それを娘2人も理解してくれた。それがチームワークです」と強調。夫婦仲の大切さについて「楽しく2人で過ごさないとつまらないですよ。人生は1回しかないんですから」と力強く語った。
米プリンストン大が5日の記者会見後に、大学構内で開いた受賞決定を祝うパーティーでは、参加した教員や学生たちが真鍋さんを囲んで記念撮影をしたり、研究内容の質問をしたりしていた。和やかな雰囲気の中、真鍋さんや信子さんも終始笑顔を見せていた。
国内では関係者から続々と喜びの声が上がった。
1997~98年に米プリンストン大に留学し、真鍋さんから教えを受けた北海道大の山中康裕教授(57)(地球環境科学)は、自宅に何度も泊めてもらうなどして親交を深めた。
山中教授によると、真鍋さんは研究だけでなく、何事にも負けず嫌いで、60歳代後半だった当時、趣味としていたジョギングについて、「今日走っていて追い越されたので、抜き返したよ」と勝ち誇ったように話していたという。
帰国した際に会うと、「論文を書きなさい。論文を書かないで研究者とは言えない」と諭された。一対一になると、ずっと研究の話をするのが常だった。
山中教授は「日本では50~60歳頃になると組織の長を任されて研究ができなくなるが、米国は研究だけに専念できる。真鍋さんは研究が大好きな人で、米国の環境が合っていた」と話し、「受賞は大変喜ばしい」と祝福した。
真鍋さんの受賞決定を受け、山口環境相は談話を発表し、「気候変動分野において多大な貢献をされ、その後の対策の基盤になった」と評価。「環境省としても、喫緊の課題である気候変動問題の解決に向け、あらゆる政策を総動員して全力で取り組んでいく」と決意を述べた。