与野党の政策論争を「バラマキ合戦」と切って捨てた財務省の矢野康治事務次官の寄稿が波紋を広げている。政府は11日、「私的な意見を述べた」(松野博一官房長官)として沈静化を図ったものの、与野党から批判が相次ぎ、更迭論も出ている。大型経済対策の取りまとめを目指す岸田文雄首相は発足1週間で難題を抱えた形だ。
矢野氏は8日発売の月刊誌「文芸春秋」11月号で、「バラマキ合戦はこれまで往々にして選挙のたびに繰り広げられてきた」と指摘。「国民は本当にバラマキを求めているのか。日本人は決してそんなに愚かではない」と強調し、財政再建の重要性を訴えた。
同じ8日、首相は閣議で衆院選をにらんだ追加経済対策の策定を指示した。自民党総裁選では「数十兆円規模」とする考えを表明しており、首相に近い同党幹部は「上司に逆らう話だ。本来なら辞めなければいけない」と非難した。
衆院選で経済対策をアピールしたい与党も後ろから撃たれた格好だ。自民党の高市早苗政調会長は10日のNHK番組で「基礎的財政収支にこだわり、困っている人を助けないのはばかげた話だ」と批判。政調幹部は「事務方トップとして軽率」と更迭を主張した。公明党からも「政治は国民の声を受け止めて合意をつくる立場にある」(山口那津男代表)と不快感を示す声が出ている。
政権内には実際に次官交代を模索する動きがある。しかし、直ちに更迭すれば、幅広く「聞く力」を重視する首相の政治姿勢との整合性が問われかねない。財務相だった麻生太郎副総裁に矢野氏が事前に了解を得たため、首相と麻生氏の関係に影響が及ぶ懸念もある。党幹部は「事を荒立てない」と語り、丁寧に対応する方針を示した。
財政規律を重視する財務省の基本的な立場を示しただけだとして擁護する声も多い。自民党幹部は「麻生氏がこれまで言っていることと同じだ。ブレーキのない自動車は困る」と話した。官邸関係者も「問題ない。言論の自由だ」と指摘した。
松野官房長官は11日の記者会見で、矢野氏を続投させるか交代させるか問われたのに対し、「現時点で答えは差し控えたい」と明言を避けた。
[時事通信社]