ススキの名所として知られる兵庫県新温泉町の上山高原で、ススキの群生面積が減少している。特に高原の山頂付近では、銀色の穂が広がっていた昨年までの景観が様変わりし一面、枯れ草に。シカによる食害が原因と考えられ、保全活動を続けてきた地元のNPO法人は「この状態が続けば、ススキ草原は壊滅的な状態になる」と危機感を募らせている。(熊谷暢聡)
かつてはブナ林とススキ草原が広がり、牛の放牧地としても利用されてきた上山高原。
ススキ草原は高度経済成長期以降、ササや低木に覆われるようになったが、イヌワシなどのえさ場を確保する目的で、県やNPO法人「上山高原エコミュージアム」が約20年前から自然再生事業を進めてきた。
雪解け後には山焼きをし、これまでに約35ヘクタールを草原として復元。近年は、日本海を見渡すことができるススキ原として京阪神方面からも観光客が訪れるようになった。
ところが、今年は高原の大部分でススキが育たずに、ワラビばかりが繁茂する<異変>が起きた。NPO法人の馬場正男・事務局長は「ススキが群生する広さは例年の3分の1ほどではないか。ワラビばかりの光景は見た経験がない」と話す。
ススキの生育を妨げた<犯人>として浮上したのが、新温泉町内で急増している野生のシカだ。
シカによる生態系への影響は、但馬各地で既に深刻化しており、森林から下草が消えるなどの被害が判明している。
県内では約12万8000頭(2019年度末)が生息していると推定されており、上山高原を含めた扇ノ山一帯でも増加。但馬の生物に詳しい同法人理事の山本一幸さんは「ススキの新芽が食べ尽くされ、シカが好まないワラビだけが育ったのだろう」と分析する。
上山高原では、リンドウやオミナエシ、ホクチアザミなど草原の植物が急速に姿を消している。これらの植物に集まる生き物にも連鎖し、フジバカマの花を好む
蝶
(ちょう) 「アサギマダラ」の姿も見かけなくなったという。
山本さんは「今年のような状況が続くと、地下茎が弱ってススキは絶えてしまう。食害によって高原全体が危機的な状況になる」と訴える。
県では、市町ごとに捕獲目標を設定するなどしてシカによる被害の軽減を目指している。県森林動物研究センター(丹波市)は「被害が少なかった地域では捕獲の態勢が整いにくいが、狩猟に力を入れて捕獲頭数を増やすことが必要」としている。