2021年の“裏流行語”!?「トー横キッズ」とは一体なにか?

2021年流行語大賞は「リアル二刀流/ショータイム」ならば、アンダーグラウンドの世界の大賞があるならば、“トー横キッズ”ではなかろうか。歌舞伎町のビル横にたむろする、奇抜な服装・行動をする若者たちを指す言葉だ。路上で騒ぐ問題行動から、暴行事件、そして殺人事件まで発生。トー横キッズはどう生まれ、どう変化したのか。「歌舞伎町の社会学」をテーマに研究する現役女子大生ライターの佐々木チワワ氏が語る。

※本稿は、佐々木チワワ『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

◆自撮り界隈の待ち合わせ場所だった、トー横

「トー横キッズの専門家として、彼らの生態を教えてください」

2021年下半期、SNSやメディアで大きく騒がれた「トー横キッズ」。彼らは歌舞伎町の新たなシンボルとなったゴジラが吼える「新宿TOHOビル」(旧コマ劇場)、その東側の路地でたむろする若者たちのことだ。歌舞伎町のセントラルロード中央に位置するTOHOシネマズ新宿が誕生したのは、2015年4月17日。旧コマ劇場跡地に建設され、ゴジラヘッドと呼ばれるゴジラと同じ高さに設置されたモニュメントから、「ゴジラ前」「TOHO前」などと呼ばれる歌舞伎町のシンボルとなった。

筆者が歌舞伎町に足を踏み入れたのは2015年末。彼らの存在を知り、交流を持ちはじめたのはその3年後からだ。最初に路上にたむろしはじめた初期メンバーと友達になり、時に彼らと飲むこともあった。そして今では彼らの経緯を知るライターとして、メディアで専門家的な扱いを受けている。では、トー横で生きる彼らは、一体どのようにして誕生したのか。

◆ルーツは、自撮りを投稿する若者たちのSNSにおける「#(ハッシュタグ)」から

2010年頃から女子中高生たちがSNSでかわいく撮れた自撮り写真を「#自発ください」というハッシュタグとともに投稿することがブームになった。自発とは“自分から発信する”の略であり、褒め称えるリプライやいいね!などがたくさん欲しいということをライトに表現していた。そこから「#らぶりつ」(いいね!&リツイートをください)になり、現在は「#1㎜でもいいとおもったらRT」などをつけた投稿に変化。そうした自撮り写真を投稿する人たちを、「自撮り界隈」と呼ぶことがSNSに定着した。

そんな自撮り界隈の人間がオフラインで交流する際の待ち合わせ場所として指定されるのが、新宿TOHOビル前だったのだ。自撮り界隈には歌舞伎町で働くバーテンダーがいたことから、店が開くまでの0次会の場所になり、そこに歌舞伎町の住人であるスカウト、営業時間外の売れないホストも合流し、混沌とした路上飲みの場所になったのがそもそもであるとされる。自称「初代トー横界隈」のバーテンはこう語る。

「僕がトー横にいたのは2018~2019年だったんですけど、都内でオフ会する連中が待ち合わせに使っていたのがTOHO前。あのビルに隣接するバーには、自撮り界隈で有名な人物がキャストとして働いていたり、歌舞伎町と自撮り界隈の癒着というか、関係が深くなっていった感じでしたね。あと、初期メンバーには18歳未満の子が多くて、ホストクラブとかは年齢確認が厳しいから入れなかったのも大きい。結果、遊びに行くならホストより安いし、年齢確認も緩いバーになった。歌舞伎町のバーは24時以降にオープンする店がほとんどだったから、24時まで居酒屋だったり、路上で時間をつぶすというのが当時の流れでしたね」

お金もなく、路上に集まる彼・彼女たちのことを、ホストとその客である風俗嬢やキャバクラ嬢たちが「キッズ」と呼びはじめた。それがトー横キッズ、という名称のおこりだ。Twitterで「TOHOキッズ」という投稿で最も古いのは2019年の9月17日。令和になって誕生した言葉である。

◆事件が絶えないトー横界隈

トー横にはフォロワー数が数千人を数えるインフルエンサーもおり、SNSに路上で遊ぶ様子や踊る様子を投稿&配信。歌舞伎町の外にまでその認知度は広がっていくことになる。こうしたZ世代の文化の発信地である一方、事件性の話が絶えない場所でもある。援助交際を行っている未成年者や、管理売春に巻き込まれる少女もいる。中年男性から「君いくら?」と尋ねられ、そのまま一緒にラブホテル街に消えていくのも珍しくはない。そしてメディアが取り上げるきっかけとなったのは、2021年6月に発生したホームレス暴行事件にほかならない。

15歳の少年がトー横付近の路上でホームレスの60代男性の頭を踏みつけるなどして暴行。その様子が撮影されており、SNS上で拡散されたのだ。事件があったのは6月だが、同年8月7日のメンタリストDaiGoによるホームレスに対する炎上発言で再び話題になった結果か、少年は傷害容疑で8月23日に書類送検された。しかし、それ以前にもトー横では深刻な事件が発生している。2021年5月11日、18歳の専門学校生の少年と14歳の中学生の少女が歌舞伎町のホテルから飛び降りて死亡したのだ。彼らはトー横に出入りしていた少年と少女で、死ぬ数時間前まで「#数時間後に死ぬカップル」というハッシュタグとともにSNSに投稿を繰り返していた。飛び降りる前に市販薬を過剰摂取してOD(オーバードーズ)状態だったこともわかっている。

◆トー横から移動したキッズたち

トー横キッズが一般に認知されて、約1年。そして2021年夏の終わり、キッズたちは新宿TOHOビルの東側路地から、建物を挟んだ反対側の歌舞伎町シネシティ広場に移動した。同時に王と呼ばれていた男性も界隈から消えた。移動の直前にはトー横に自警団のようなものも形成され、周辺をゴミ拾いし、ポイ捨てする少年少女に注意を呼びかけたり、トラブルがあったときに仲裁するなどの役割を担っていた。

移動先の広場だが、もともと新宿・歌舞伎町における路上飲みの聖地として知られていた。隣接するナイトクラブの「新宿WARP」にライブハウス「BLAZE」は泥酔した若者たちに溢れ、その横にはホームレスたちが酒盛り。反対側のアパホテル前には異国の街娼たちも座り込んで客を待っている。

広場のトー横キッズも人数増えすぎたためか、少しコミュニティが分散しているように感じる。初めてトー横に来たと覚しき少女は、複数の集団の間を行ったり来たりしながら、輪に溶け込めてない様子。誰もが楽しめる雑多な飲み場だったトー横は、いつの間にか放課後の教室のようなうっすらとしたグループ分けができていた。近くのゲームセンターのトイレに筆者がいたとき、彼女たちの話し声が聞こえてきた。

◆少女たちの新たな居場所

「ねぇ、今から一瞬、広場に寄っていい?」
「えー、最近めんどくさいからイヤだなぁ。アイツいるし」
「この時間ならいないって。大丈夫だよ」
「うーん。一瞬だけだよ、本当に」

家庭環境や学校の人間関係からの逃げ場だったトー横にも、複雑な人間模様は織りなされているようである。広場でたむろしていた少女に「あなたはトー横界隈なの?」と尋ねると、「あいつらと一緒にしないでよ」と返された。そのくらい細かい棲み分けがなされているようだ。傍からみればその差はわからないが。実際、広場前に中学の宿題のプリントと缶チューハイが並んでいて、それを解いている少年の横で中年男性が笑いながら酒を飲みながら見守っていた。年齢に関係なく繋がる。たまり場のような一面が、今の広場前に生まれつつあるようだ。

私が歌舞伎町に足を運び入れた2015年には、こんなことはあり得なかった。歌舞伎町は普通に危ない場所だと思っていた。一緒に足を運ぶ友達なんていなかった。同年代の友達が増えたことなんてなかった。そんな私からしたら、トー横界隈はすこし羨ましいし、私が15歳だったら一度は訪れているんじゃないかと思う。それでも、すべてを肯定することはやはり難しい。今でも歌舞伎町を歩いていると唐突に中年男性から「君いくら?」と聞かれることがある。この街にいるってことはそういう女の子なんだと見られる。トー横にいる女の子=売春するというイメージも報道によりつけられたようで、SNSでは「トー横でお金に困っている子いませんか?」と買春目的の男性のアカウントも生まれつつある。

12歳の少女が売春相手を見つけたのもSNSだった。トー横の女の子の多くは自撮り界隈出身であり、当然、自身の写真をアップしている。かわいい女の子には多数の援助交際のオファーが届く。いつでも魔の手が迫る。また、すぐ横に歌舞伎町のお金を使う文化がある環境は、やはり金銭感覚も狂いやすいし危険だ。とはいえ、彼女たちを強制的に家庭に引き戻すような行為は意味がないと筆者は考える。問題があるから逃げてきたのに、問題が起きている場所に追い返すだけでは、問題がくすぶるだけだ。

何ができるのか、何が正しいのかは今後も考え続けたい。今、ある意味悪い大人もまともな大人も目を光らせることができる「路上」という場所に彼らがいてくれるのは、早期発見・早期解決をするうえで大切なことだ。過干渉にならず、かといって放置もせず、問題が起きたら大人が大人らしい対応をして助けるということが、ひとまずの対策としては適切なのではないだろうか。

トー横にキッズたちはいなくなったが、体育祭か文化祭終わりの記念Tシャツを着た女子高生が写真を撮っていた。もはや撮影スポットのようだ。私たちの時代でいうと原宿の竹下通りのような感覚で、彼女たちは歌舞伎町に集まっているのだろう。そして2021年11月27日には、歌舞伎町のビルで発生した殺人事件で、メディアは“トー横キッズが関与している”と報じた。トー横界隈の人間が減り、若者たちの憩いの場である現在のシネシティ広場は、今回の報道でまた姿を変えていくのだろうか。

【佐々木チワワ】
現役女子大生ライター。10代の頃から歌舞伎町に出入りし、フィールドワークと自身のアクションリサーチを基に大学で「歌舞伎町の社会学」を研究する。歌舞伎町の文化とZ世代にフォーカスした記事を多数執筆。ツイッターは@chiwawa_sasaki