「給付金と補助金を利用すれば…」大阪偕星学園高校野球部の元監督とセクハラ逮捕コーチが今度は“Go Toトラベル詐欺”で逮捕《被害額は300万円以上?》

女子トイレ盗撮、100万円窃盗、喫煙…大阪偕星学園高校野球部の不祥事が止まらない「学校の隠蔽体質が事態を悪化させている」 から続く
大阪偕星学園高校(大阪市生野区)の元硬式野球部監督・山本セキ(晳・53)が、観光支援事業「Go Toトラベル」の給付金およそ80万円を国からだまし取ったとして1月12日に詐欺容疑で逮捕された。
山本は2015年の夏に大阪偕星学園高校を初の甲子園出場に導き、2021年3月に依願退職。同4月からは岡山県の私立倉敷高校で監督を務めていたが、逮捕にいたった詐欺行為は大阪偕星学園高校時代の出来事である。
大阪府警の刑事特別捜査隊と富田林署は山本と同時に、もう2人の容疑者を逮捕している。
1人は、大阪偕星学園の球児14人に対してセクハラ行為を続け、昨年8月に強制わいせつ罪で起訴されている水落雄基(31)。
もう1人は、山本の中学・高校の同級生であり、詐欺の舞台となった旅館「おやど 文乃家(ふみのや)」を経営する吉間俊典(54)だ。山本は吉間について「小さい頃からの舎弟やから、何でも言うことを聞くんや」と周囲に豪語していたという。
詐欺の構図はこうだ。
詐取額は300万円近い額に…
2020年、山本が監督を務めていた大阪偕星学園の野球部は、山本の故郷である岡山県津山市で複数回にわたって合宿を実施した。その際に文乃家を定宿としていたが、本来は一泊7000円のところ、Go Toキャンペーン対象の上限となる一泊2万円で宿泊したと水増しして観光庁に申請。Go Toキャンペーンでは宿泊金額の35%が給付金として支払われるが、それを山本個人の口座に振り込ませて詐取していた。
大阪府警の発表によれば、山本らが不正に得た給付金はのべ113人分となる79万1000円だという。しかし私の手元に、水落が2021年2月に関係者に送ったメールがある。そこには宿泊費を水増し申請した合宿の日程、宿泊者数などが詳細に書かれており、それらを計算すると詐取額は300万円近い額にふくれあがる。
山本がGo Toトラベルに目をつけたのは2020年夏か
まずは関係者の証言や水落のメールをもとに、大阪府警が捜査に動くにいたった詐欺事件の経緯を時系列で追いたい。
2020年初夏頃 山本が野球部の関係者に「Go Toトラベルの給付金と、津山市から出る一泊一人当たり3000円の補助金を利用すれば、一泊7000円の旅館に実質2000円の負担で宿泊することが可能なんや。父兄は納得するやろうか」と相談を持ちかける。この時点で、山本がGo Toトラベルの給付金や津山市からの補助金に目をつけていたことがわかる。
2020年8月 大阪偕星学園高校の野球部は計4回6泊の合宿を岡山県津山市の旅館「文乃家」で実施。合宿終了後に、実際は一泊7000円だったが、水落に命じて一泊2万円に水増しして観光庁にGo Toトラベルの給付金を申請させる。 この時、水落は詐欺行為に加担させられていることに不安を感じて複数の学校関係者に相談しているが、当時の野球部長には「私は聞かなかったことにする」と返答されたという。
2020年10月 第1週と第2週の2回、津山で合宿を実施(計2泊)。この時にはGo Toトラベルキャンペーンの申請方法が変更されており、宿泊者ではなく宿泊施設側の文乃家が申請を行う必要があった。そこで今度は旅館経営者で山本の同級生でもある吉間が、宿泊費を水増しして申請したと思われる。山本は合宿の前日に自らの口座から文乃家に宿泊者×2万円の宿泊費を一度振り込んでおり、実際の宿泊費である7000円を差し引いた1万3000円の返金作業がなんらかの形で行われているはずだが、その点も今後の取り調べで明らかになっていくだろう。
2020年12月 3泊の合宿を2回実施。
2021年1月14日 水落のセクハラ行為が保護者から学校への連絡によって発覚し、学校内の調査で水落が「Go To詐欺の片棒を担がされてストレスを溜め込んでいた」と告白。水落のセクハラ被害にあった生徒の保護者も、山本にGo Toトラベルにまつわる詐欺の疑いがあると学校の顧問弁護士から説明を受けている。
2021年2月21日 山本が野球部の保護者を集め、一泊7000円と説明していた宿泊費がなぜ2万円だったかについて釈明(詳細は後述)。
2021年8月 水落が強制わいせつ容疑で逮捕される。セクハラ事件と共に、山本と水落、吉間の3人が共謀したGo Toトラベル詐欺の疑いについても捜査が続く。
2022年1月12日 山本と水落、文乃家を経営する吉間の3人が逮捕される。
水落が関係者に送ったメールにあるだけでも、水増し申請したのは計14泊のべ425人となり、1人あたり7000円の給付金ならば不正に詐取した総額は297万5000円になる。
また、2万円に対する35%の給付金に加えて15%分のクーポン券も山本らは手にしていることになり、部活の合宿を奨励していた津山市からの補助金も受けていた。野球部の関係者が話す。
「クーポン券を使って、母親と食事すると山本監督が話していたのを聞いた者がいます。また、津山市からの補助金は合宿の参加人数によって額が異なり、20人から29人の参加者だと6万円で、30人を超えると9万円になる。それで合宿の参加人数を水増しして申請していた疑いもあります」
「私の男気です。ポケットマネーで払いました」
山本の手口が巧妙なのは、Go Toキャンペーンを実施する国以外からはお金をだまし取っていない点である。保護者からは通常の1泊7000円の合宿と同じ2000円だけ受け取り、旅館にも一泊あたり7000円が渡る。被害者がいないのだから、問題は明るみに出にくい。
とはいえ7000円だと思っていた宿泊費が水落のセクハラ事件の調査の過程で2万円だったと明らかになった時、山本は保護者たちにどう説明したのだろうか。まずは野球部の関係者が証言する。
「高級旅館ではありませんし、そもそも野球部の合宿として1泊2万円はあまりに高額です。昨年2月に詐欺の疑惑が浮上し問題化した際、山本は『2万円にして食事を豪華にしてもらう』、『コロナ対策として貸し切りにする必要があるから高くなる』、『うちのオヤジが津山の発展のために払ってくれた』などと場当たり的な説明を繰り返していました」
水落のセクハラ事件の責任をとって謹慎していた山本は、2月20日に生徒たちの前で「俺は無実や」と再三主張し、翌21日に保護者に対して開かれた説明会でも必死に弁明していたという。
「ただ保護者としては損をしているわけではないので、それほど深く疑う雰囲気もありませんでした。『(2万円の宿泊費を支払ったのは)私の男気です。ポケットマネーで払いました』と山本が説明した時には感動して涙を流す保護者もいたくらいです。しかし水落のセクハラ被害者がいるというのに、生徒や保護者の前で山本監督は『水落のド変態が……』というような汚い言葉を連発していて、被害者の親として許せませんでした」(説明会に参加した保護者)
「あれは不正じゃないですか」
大阪偕星学園高校の野球部で起きたGo Toトラベル詐欺について、私が現段階で知り得たことをここまで紹介してきた。水落は一昨年の8月に野球部の部長らに詐欺を報告し、また自身のセクハラ行為が明らかになった時にも、学校の顧問弁護士らに詐欺行為に加担していたことを告白していた。
1月12日に山本、水落、吉間の3人が逮捕された後、大阪偕星学園の梶本秀二校長は取材に対してこう答えている。
「事実であれば子どもたちを巻き込み国の施策を悪用した行動で許せない」
これまで筆者は文春オンラインで大阪偕星学園高校野球部で相次ぐ不祥事を報じてきたが、今回も学校側が「知らなかった」と責任を逃れようとする姿勢を貫くことには呆れてしまう。
昨年の9月に取材に応じた同校の教頭は、こう話していた。
「甲子園に出た時(2015年)から彼は周りにちやほやされて“大監督”となり、山本王国を築いていた。子どもたちにも悪影響を与えている。Go Toのことなんかまさにそうです。私が聞き及んでいる範囲では、あれは不正じゃないですか。奥深いです」
「奥深い」は「闇が深い」の言い間違いだろうか。ともあれ、昨年9月の時点で教頭はGo Toトラベルにまつわる詐欺疑惑を把握していたはずだ。
大阪偕星学園高校の闇は、一向に底が見えてこない。
(柳川 悠二/Webオリジナル(特集班))