新型コロナ対策のためなら「東京五輪中止!」まで訴えた「行動制限のオミ」ならぬ「行動制限の鬼」尾身茂・政府対策分科会会長が豹変した。
オミクロン株の感染大爆発で「まん延防止等重点措置」の適用を承認した2022年1月19日の対策会議終了後、「ステイホームや、飲食店を閉める必要はない」と発言したのだ。
このサプライズに、メディアやネット上では「目が点」になる人が続出している。
尾身会長「4人くらいで飲めば店を閉める必要はない」
問題の発言は、政府の新型コロナ対策を議論する有識者会議「基本的対処方針分科会」の会議終了後、記者団の取材に応じたなかで出た。毎日新聞(1月20日付)「尾身会長「『人数制限』がキーワード 大規模クラスター予防を重視」によると、尾身茂会長は、
と話したという。疫学調査での分析によると、大声を出したパーティーや会食などは感染リスクが高いことから、こうした場面での人数制限に協力を求める考えを示したのだ。つづけて、
などと発言したという。
尾身氏は楽観的すぎるのでは…
この尾身会長の発言は、メディアの間でも驚きをもって迎えられた。これまで、ことあるごとに「行動制限」と「飲酒禁止」を主張。昨年(2020年)6月には国会の場で、「パンデミックの中での開催は普通でない」と「東京五輪中止」にまで言及し、開催強行をもくろむ菅義偉政権を激怒させたこともあったからだ。
テレビ朝日「報道ステーション」でも1月19日夜、「尾身発言サプライズ」を取りあげた。テレビ朝日ニュースオンライン版(1月19日付)「尾身会長『人流より人数制限』の真意は?都との温度差は?記者解説」によると、テレビ朝日経済部の平元真太郎記者は「これまで厳しい行動制限を、国民にお願いすることが多かった尾身会長の発言には驚きました」とした。
背景にあるのは、自信と焦りだと見る。自信は、新型コロナの特徴がわかってきたため、外出自粛まで求めなくても、感染が危機的状況になることはなさそうだ、ということ。焦りは、人流抑制に意味を見出せなくなっており、「せめて会う人の数は減らしてほしいと古典的なお願いをするしかない」ことを挙げた。
一方で、尾身発言は東京都にも衝撃を与えた。同じ1月19日に小池百合子知事が記者会見で、
と、尾身氏が必要ないとした「ステイホーム」を強く都民に呼びかけたばかりだったからだ。また、東京都は飲食店に時短営業を要請する方針だ。これも、「4人までなら店を閉める必要はない」とする尾身発言とは真逆だ。
前出の「報道ステーション」でも、「ある都の幹部の話」として、「尾身会長の発言は、少し楽観的ではないかという見方を示していました。まだ1割はデルタ株が残っている可能性が高い」からと伝えていた。
若者に「病院に行くな」ということか
尾身氏の方針転換の背景には、以下のような事情もありそうだ。
朝日新聞(1月20日付)「若者ら受診急がなくても 専門家内で浮上、異論も」によると、感染者が急増した沖縄県で速やかな検査が難しくなっていることから、「専門家たちの間では、現在の受診のあり方を見直す案が浮上」したと書いている。「基礎疾患のない若い世代は、症状が軽ければ検査や受診を急がず自宅で安静に過ごすことを検討」してもらう、というわけだ。
そうすれば、社会経済を回すことで感染者が増えても、医療機関に過度な負担をかけずに済むという期待がある。50歳未満を軸に検討しており、19日の分科会会合でも複数の専門家から対応を求める意見が出たのだった。
ただ、世論が納得するかどうか、それは難しい問題だ。
インターネット上では尾身会長の「豹変」に批判的な声が圧倒的だ。ヤフーニュースのヤフコメ欄ではこんな意見が相次いだ。
(福田和郎)