全国的に患者の搬送先がすぐに決まらない「救急搬送困難事案」が増加しているなか、東京都内でも搬送先がすぐには見つからない状況が過去最多の水準になっている。長引く新型コロナウイルス禍で通常医療が制限を受けていたところに、今冬の大雪やオミクロン株による感染急拡大が直撃したかたちで、救急医療への影響の深刻化が懸念される。
都では救急搬送先について、5カ所以上の医療機関に照会するか、20分以上決まらない場合、「地域救急医療センター」が調整に乗り出す「東京ルール」を導入している。この適用件数が、今月17日の段階で「突き抜けて多い数字」(都担当者)という1日200件を突破。20日まで4日連続で200件を超えた。
感染第5波に見舞われた昨年8月10日の185件がこれまでで最も多く、平成21年度に東京ルールができて以降、例のない水準で推移している。
要因の一つが新型コロナだ。昨年8月の感染第5波の際、多くの病院は通常医療を制限してコロナ患者に対応した。年末までの小康状態を受け、後回しにされていた手術などを順次こなしているため、もともと病床が逼迫(ひっぱく)気味だという。
例年、冬は脳卒中や心筋梗塞などの救急受診が増える。加えて、今年は大雪による転倒で救急車の出動が増加した。通常、搬送困難事例の1割程度にとどまる整形外科や脳神経外科が、直近では2割超を占めるという。転倒して骨折したり、頭を打ったりしたケースと考えられる。
都医師会の猪口正孝副会長は「コロナ患者の病床確保を進める一方、冬場は骨折なども多く救急が大変な時期だ。感染者の急増が加わると文字通り病床がいっぱいになってしまう。現場はぎりぎりの状態で回している」と危機感を示す。
都は現在の新型コロナ患者急増を受け、病床を6919床に増やす方針で、各医療機関に協力を要請している。病気で入院中の患者を別の病室や病棟に移動させたり、あるいは転院を求めたりして「ひねり出してもらう状況」(都担当者)だという。
22日時点の入院患者は2401人だが、今のペースで感染者が増えた場合、今月下旬には7千人を上回ると推計される。猪口氏の危惧通り、今後、救急医療にさらなる影響が及ぶことは必至だ。
小池百合子知事は「(重症化しにくいとされる)オミクロン株の特性も見ながら、通常医療への影響も考えつつ、自宅療養や宿泊療養を組み合わせた全体の医療資源をどう活用するかを考えたい」と述べた。(大森貴弘)