激しい選挙戦が終わり、人口約6万人余の小さな街から喧噪(けんそう)が去った。23日に投開票された沖縄県の名護市長選。今後4年間のかじ取りを担う市のトップは決まったが、市民にとって米軍基地の問題と向き合わなければならない日々が今後も続く。
政府・与党の支援で再選を果たした渡具知武豊(とぐちたけとよ)氏(60)は24日朝、片付け作業が進む事務所で報道陣の取材に応じた。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設の賛否は今後も明確にしない考えを示し、「基地に反対していても私に票を投じた人がかなりいる。市民と約束した公約をしっかり守っていくことで理解してもらいたい」と強調した。
移設に向けた埋め立て工事が進む辺野古の米軍キャンプ・シュワブのゲート前。この日も資材を積んだ大型車両が出入りする中、約15人が抗議活動を繰り広げた。那覇市の女性(70)は名護市長選の結果に「なぜ基地は駄目という思いが伝わらないのか」と嘆きながらも「戦後70年余の歴史の中で、沖縄の先輩たちは声を上げてもつぶされる体験をしながら運動を続けてきた。基地を建設する限り、抗議は続ける」と言った。
ゲート前から少し離れた辺野古の集落では安堵(あんど)感が広がっていた。多くの住民は振興策などの条件付きで移設を容認しているが、移設反対を掲げた新人が当選すれば国の米軍再編交付金の支給が凍結され、振興事業が中断する可能性があったためだ。
ただ、辺野古で自治会組織の区長を務める古波蔵太(こはぐらふとし)さん(48)の心境は複雑だ。街頭で基地問題にほとんど触れず、子育て支援や地域振興を訴えた渡具知氏が5085票の大差で勝った結果に「市民の基地問題への興味が薄れてきている」との懸念が頭をよぎったという。辺野古がある東海岸と中心部の西海岸で市民の考え方に差があると感じる。「西海岸では生活に直結しないと思うが、地元では永遠に終わることのないテーマだ。基地問題にもちゃんと向き合ってほしい」
辺野古から約10キロ北東。自然豊かな「やんばるの森」近くで2歳児を育てる飲食店パート、玻名城朱里(はなしろじゅり)さん(33)は選挙結果にため息をついた。将来、辺野古に飛行場が移ってくれば、上空を米軍機が飛び交う事態にならないか。既に、自宅前の国道では米軍車両が列をつくり、森の中の訓練場に向かう光景を目にする。「市長は基地が完成すれば暮らしがどう変わるか説明してほしい。容認も反対もしないままで、不安に思う声が無視されているような気がする」
選挙が終わり、多くの市民は2月から始まるプロ野球・日本ハムの春季キャンプを楽しみに待つ。「ビッグボス」こと新庄剛志監督が就任し、多くのファンが街を訪れる。西海岸にある球場には「歓迎」の文字が入ったのぼり旗が並ぶ。
一方、すぐ近くの歓楽街は新型コロナウイルスの感染拡大の影響でほぼ全ての店が休業。店内でスポーツ紙を広げていた酒店の男性店主(67)はつぶやいた。「選挙が終わってほっとしている。電話が鳴ったと思ったら、酒の注文じゃなくて(報道各社などの)世論調査ばかりだったもの。早く日常が戻ってほしいけれど、コロナが落ち着かないことには何も始まらないね」【竹内望、比嘉洋】